下のパワーハラスメントの6類型のうち、この稿では「3.人間関係からの切り離し」について解説します。

人間関係からの切り離し
  1. 身体的な攻撃
  2. 精神的な攻撃
  3. 人間関係からの切り離し
  4. 過大な要求
  5. 過小な要求
  6. 個の侵害

「人間関係からの切り離し」とは、相手を孤立させ、職場から追い出そうとするときによく出てくる類型です。

いわゆる「追い出し部屋」

この類型は、職場ぐるみ、会社ぐるみで対象者から居場所を奪おうとするときによく出てきます。
行き過ぎた指導がパワハラに発展した、相性の悪い上司と部下の間のトラブルがパワハラに発展した、というのとは、かなり性質が違います。裁判に発展した事案もかなりあり、そのうちのひとつをご紹介しましょう。

明治機械事件 東京地裁(令和2年9月28日)判決

大卒後1年の新入社員に対して、試用期間を繰り返し延長したあげく、解雇した事案で、試用期間延長、解雇のどちらも無効とされ、解雇以後の賃金と慰謝料50万円が認められています。

会社は繰り返し退職勧奨をしましたが、それ自体は不法行為ではないとして、裁判所も認めています。しかし、会社側が新入社員である原告を会議室にひとりで座らせて、1日中簿記等の自主学習をさせた、という行為については、「原告の人格権を侵害する違法行為というほかなく,不法行為に当たる」と述べて否定しています。

さらに詳しく見てみましょう。
下記は判決文からの引用です。

平成30年7月23日,dが,原告に対し,原告が本件会議室において午前8時45分から午後5時30分まで一人で簿記の学習等をしていることについて「苦痛じゃない。俺なら苦痛だけどね。」,「退職勧奨にもっていくために…それを耐えてんのは大したもんだよ。」などと発言していて,d及びcが,平成30年7月1日以降,原告が精神的苦痛に耐えられないで退職を申し出ることを期待して本件会議室で主に自習させることを継続させていたと認めざるを得ず,退職勧奨に応じさせる目的で処遇したというほかない。

「謝って済む問題じゃねえだろ。嘘ついてんだぞ,おまえ。」,「おまえは嘘つきだって,言われてるよ。」などと繰り返し非難し,原告が「生産性のないやつ」でその「給料分,他の社員たちに与えた方がより効率的」などと侮辱的表現を用いて退職勧奨している。そうすると,原告に精神的苦痛を与えて退職勧奨に応じさせる目的で本件会議室に一人配置して主に自習させ続けた処遇及び平成30年7月23日のd及びcの退職勧奨に係る言動は,その手段・方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しているといえ,原告の人格権を侵害する違法行為というほかなく,不法行為に当たる。(太字は引用者)

「追い出し部屋」については、何度も報道され、裁判でもこのように不法行為認定されている事件が多数あるにも関わらず、2018年に至ってもいまだにこのような言動をする会社(上司)がいるというのは驚きですね。

被害者からすると、たいへんつらい状況ですが、比較的証拠が残りやすい事案であるとも言えます。

無視、仲間はずれにする

実際にパワハラ事案として多いのは、無視したり、仲間はずれにするという行為でしょう。

集団でひとりの人を無視する、という場合、無視している側は「悪いことをしている」という自覚が薄いのに対して、無視された側はメンタルに大きな打撃を受けます。

朝出勤して、上司や同僚に「おはようございます」とあいさつしても、だれからも返事が返ってこない。
ささいなことのようですが、数ヶ月もこのような仕打ちを受けると、たいていの人が精神的に参ってしまいます。

パワハラのご相談を受けると「あいさつしても返事がない」「仕事上の報告をしても、へんな目つきでじーっと見るだけで、いいとも悪いとも言われず、身の置きどころがない」等の内容を聞くことがありますが、これを証明しようとすると、目撃していた他の従業員の証言に頼らざるを得ません。
しかし、「目つき」「無言」というのは、他の人からはわかりにくい部分なので、難しいですね。

上の「追い出し部屋」案件も同じですが、行為者の側は「(被害者が)協調性がない、能力が低い」等の理由を挙げ、「この会社に向いてないからいないほうがいいと思った」と、自分を正当化する行為がよく見られます。

いくら指導しても期待する成果が出せない、反抗的な態度が多いという場合、配置転換や退職勧奨をしたり、場合によっては解雇するということも、労務管理の観点からありうることです。
まさに「この会社に向いていないから」という理由ですね。

しかし、無視したり仲間はずれにしたりして、会社での居場所をなくし、自分から退職するようにしむけよう、という卑劣な行為は、本人の能力や態度を言い訳にしても正当化できません。

人権侵害であり、不法行為だということを、研修等でくりかえし、従業員に周知する以外ないでしょう。

その他の類型については、下のリンクをご参照ください。

パワハラ6類型の解説記事

  1. パワハラ6類型の「身体的な攻撃」とはなにか
  2. パワハラ6類型の「精神的な攻撃」とはなにか
  3. パワハラ6類型の「人間関係からの切り離し」とはなにか
  4. パワハラ6類型の「過大な要求」とはなにか
  5. パワハラ6類型の「過小な要求」とはなにか
  6. パワハラ6類型の「個の侵害」とはなにか