さて、いきなり当ブログには似つかわしくない画像で始まりましたが、男性が女性の「頭ポンポン」し、女性はときめきを感じている、というイラストですね。
少女マンガ風の絵柄で、少女マンガの世界、そして、恋愛ドラマによく出てきそうなシチュエーションです。
こちらは、恋愛という文脈ですが、相手を励まそうとするときにも出てくる行為でしょう。

しかし、これを職場でやってしまうとどうなるか。
そう、基本的に不必要に相手の体に触れることはセクハラになりますね。
少女マンガや恋愛ドラマのように、女性がドキドキして、ふたりの間が進展するでしょうか。

不必要な身体接触はセクハラになる

判例をひとつご紹介しましょう。

この裁判は他にも争点があったのですが、セクハラに関する部分のみ、解説します。

被告Z2自身,本人尋問において,帰宅を促す形で原告の頭に軽く触ったことが2回ほどあることを認めている(被告Z2 4頁以下)から,詳細な行為態様はともかく,被告Z2が退社する際に原告の頭部に触れたことが複数回あるものと認められる。そして,必要もなく身体的な接触をする行為は,被接触者に性的不快感を抱かせ得るものであるところ,従業員に対して退社を促す際に,身体に接触する必要は全くないといえる。しかも,原告は女性で被告Z2より20歳ほど年下であり,かつ,被告Z2は,当時直属ではなかったとしても原告の上司に当たり,上司と部下という関係以上に原告と個人的に親密な関係にあったわけでもないのであるから,被告Z2の上記行為により原告が性的不快感を抱いたことは,客観的にみて首肯できるものであり,このような行為が複数回にわたって行われたものであることにも照らせば,被告Z2の上記行為は,社会通念上許容される限度を逸脱し,原告の人格権を侵害した違法なセクハラ行為に当たるというべきである。

東京地方裁判所/ 平成28年12月21日 判決文(強調は引用者)

ここに出てくる「被告Z2」は昭和35年生まれの男性で、事件当時は取締役でした。
原告は昭和55年生まれの女性です。
会社はIT関係で、従業員250名程度でした。

ここに書いてある行為を「頭ポンポン」と表現してよいかはわからないのですが、「不必要に頭部に触れた」ことは間違いないようです。
会社の上司と部下という間柄で、とくに個人的に親密ではない場合、頭に触る程度のことでも「性的不快感」を抱くのは当然と、裁判所も認めているいうことですね。

多くの女性が、男性上司に頭を触られたらぞっとするのではないでしょうか。
このあたりが「その程度のことで」と感じる中高年男性の感覚とは大きなギャップがあります。

被告Z2によるセクハラ行為は,被告Z2が帰り際に原告の後頭部を触ったことが少なくとも2回ほどあったこと,原告に対して「愛してる」といったメッセージを送り,これに対する応答がなかったことから「もう,いい」などといったメッセージを送ったことである。前記のとおり,被告Z2は,原告の上司に当たり,その職務上の地位の違いなどにも照らすと,これらの行為は,原告の就業環境を不快にさせ,原告に相応の精神的苦痛を与えたものといえるが,その一方で,いずれの言動もそれ自体が卑わいな性格のものとはいえず,身体的接触については,その部位や接触時間,回数も上記のとおりなのであって,これら行為の態様や性格,その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると,上記行為により生じた原告の精神的苦痛に対する慰謝料としては10万円と認めるのが相当である

東京地方裁判所/ 平成28年12月21日 判決文 (強調は引用者)

一方で、裁判所は「その程度のこと」なので、慰謝料は10万円という低額の認定もしています。

不必要に体に触れない、というのは、セクハラ防止研修を行えば必ず説明がある事項です。
研修を受けたことがなくても、もはや常識ですね。
この被告上司が知らなかったとは思えません。

しかし、相手に恋愛感情を持ってしまうと、そのあたりの常識がすっとんでしまうようです。
行為者は主観的に恋愛と感じているが、被害者は性的不快感を感じる、つまりセクハラだと思っているというパターンです。

会社にはセクハラを起こさないよう教育する義務がある

この裁判では、上司だけではなく、会社も被告になっています。

そして、会社にも損害賠償が認められました。
理由を説明している部分を引用しましょう。

まず、一般論として、会社にどのような義務があるかの説明です。

被告会社は,多数の従業員を雇用する会社として(甲2によれば,年俸制社員約100名,パートタイム従業員約150名を雇用しているものと認められる。),その雇用契約上就業環境を整備し,これら従業員が就労しやすい環境を保つよう配慮する信義則上の義務を負い,その一環としてセクハラ行為が起こらないよう従業員に対して研修等を実施して指導・教育すべき義務を負うものというべきである。

さらに、この事件では会社は義務を果たしていたかどうかの認定です。

被告会社は,新入社員に対してはセクハラ防止に係る研修を実施しているものの(争いがない),被告Z2のような中途採用者に対してはこれを実施していなかったものと認められ,上記指導・教育義務を一部懈怠していたものというべきである。

結論としては、こちらも賠償額は10万円です。(その他、解雇無効と認定され、全体では賠償額は数百万円となります)

この会社は、セクハラ防止研修をまったくやっていないわけではなく、新入社員については実施していました。
しかし、中途採用者には実施してないということで、原告はこの会社では研修を受けていなかったということですね。

研修を受けていない従業員がセクハラ行為で訴えられると、会社もその責任が問われます。
もし研修を行っていれば、セクハラについての会社の責任度合いはかなり違ってきたでしょう。