下のパワーハラスメントの6類型のうち、この稿では「4.過大な要求」について解説します。
- 身体的な攻撃
- 精神的な攻撃
- 人間関係からの切り離し
- 過大な要求
- 過小な要求
- 個の侵害
「過大な要求」とは、業務上明らかに不要なことや遂行不可能な業務を押し付けるパワハラです。
多くは、暴言や侮辱等の「精神的な攻撃」を伴い、被害者は長時間労働せざるを得なくなるため、最悪の場合は過労死、過労自殺という結末になることもあります。
厚労省のリーフレットには、次のような例が載っています。
①長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずる
②新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責する
③労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせる
2020年(令和2年)6月1日より、職場におけるハラスメント防止対策が強化されました!
とくに②について、思い出されるのが、電通の高橋まつりさんの事件です。
高橋まつりさんは、2015年3月に大学を卒業後株式会社電通に入社、長時間労働が続き心身の健康を損なった結果、同じ2015年の12月に自死を遂げてしまいます。
翌年4月にはご遺族が労災申請し、9月に労災が認定されました。
長時間労働で疲弊し、悲痛な心情をTwitter でつづった内容が一時拡散し、大きな話題となりました。
高橋さんの時間外労働時間は、2015年10月25日から31日の1週間で47時間26分、11月1日から7日が37時間18分、12月7日から11日の5日間で36時間28分、12日から18日の1週間で36時間18分となっています。終業時間は早くて22時、ほとんどの日が深夜12時を回っていました。(『過労死ゼロの社会を: 高橋まつりさんはなぜ亡くなったのか』高橋幸美, 川人博より)
4月に入社したばかりの新入社員にこのような長時間労働をさせていたばかりか、上司からのパワハラ、セクハラもひどいものでした。
励ますどころか悪態をつく上司
まつりさんがツイッターに残した「つぶやき」によれば、上司は、彼女に対し て、ひどい暴言を繰り返していた。(写真4、5)
「君の残業時間の20時間は会社にとって無駄」
前掲書より
「会議中に眠そうな顔をするのは管理ができていない」
「髪ボサボサ、目が充血したまま出勤するな」
「今の業務量で辛いのはキャパがなさすぎる」
「女子力がない」
「男性上司から女子力がないだのなんだのと言われるの、笑いを取るためのいじりだとしても我慢の限界である。」
最初に引用した厚労省のリーフレットでは、この「過大な要求」について、パワハラにならない例として次のように記載しています。
①労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せる
新入社員にとって荷が重い仕事だとしても、育成のためにまかせたとしたら、上司は仕事ぶりについてフォローし、長時間労働にならないように配慮しなければなりません。
しかし、この発言を見ると上司にそのような気はなく、長時間労働についても、なんら問題視していなかったことがわかります。
これは新入社員だけの問題ではなく、いままでとは異なる業務に異動してきた従業員、会社の新規開発部門等でも同じようなことが起こりえます。
業務の都合で一時的に残業が増えてしまうことは避けられないかもしれませんが、会社は長時間労働をしている労働者については、心身の健康を保つよう特段の配慮が必要です。
直属の上司だけでは解決が難しく、会社ぐるみで働き方の見直しにも取り組まないといけない場合もあるでしょう。
仕事をたくさんさせることがパワハラになるという、昔気質の方からは信じられないような内容かもしれませんが、この類型は、パワハラの中でも生死の問題になる重要なものだということを、今一度認識しておきたいものです。
その他の類型については、下のリンクをご参照ください。