2020年4月1日から、消滅時効期間の変更に伴い、未払い賃金を請求できる期間が2年から3年に延びたことはみなさんご存知でしょう。

2022年3月31日までの期間について、未払い賃金を請求することができる期間はいままでの過去2年と同じでしたが、この4月1日からは、現在までの期間すべて、そして、来年4月1日からは3年となります。

1年請求期間が延びたということは、万一、未払い賃金(主に未払い残業)があったとしたら、支払わなくてはならない額が増えてしまいます。
それだけではなく、従業員から請求があれば、3年間遡って勤怠と給与支払いを調べなくてはなりません。
この事務負担もバカになりませんね。

もうひとつ見逃せないことは、請求する未払い残業の額が増えることによって、弁護士に依頼することが前より容易になるということです。
相手方から取れる金額が少額の場合、弁護士の採算ベースに合わないのでひきうけてくれなかったものが、請求金額の増大に伴って、弁護士の関与が増えることが予想されます。
従業員本人を相手にするより、弁護士のほうが当然会社にとっては手強い相手となります。
ここも要注意ポイントです。

7つのチェックポイントで日頃の対策を

さて、ではその対策はどのようにしたらよいでしょうか。

「未払い賃金(残業代)を発生させない」
これにつきます。

そのためのチェックポイント7つをご紹介しましょう。

Check1. 労働時間を切り捨てていませんか?

残業を計算するときに、10分単位、15分単位、30分単位で端数を切捨てていませんか?

労働時間は、すべて1分単位で計算しましょう。切上げ、つまり、労働時間が増えるのは構いませんが、切捨ては違法です。

例外はひとつだけ。

「1か月の労働時間を全部合計して、そこに30分未満の端数が出たときにだけ、切り捨てることができる。30分以上は切り上げとする。」

でも、いまではパソコンを使って計算し、支給は現金ではなく振込が主流ですから、このような方法を使う必然性はほとんどありませんね。

チリも積もれば山となる、で、3年分さかのぼると、これもシャレにならない金額になる場合があります。

Check2. 始業前の清掃・朝礼などは強制参加ですか?

始業前に職場の清掃、朝礼などを行っている会社は多いですね。

中には、会社の周りの道路や駅前の清掃を行っているところもあります。社会貢献としてはすばらしいのですが、労働時間管理の面からは注意しなくてはなりません。

判例では、清掃、朝礼、体操などが、仕事の一環として義務付けられてるときは、これも労働時間になるとされています。(三菱重工業長崎造船所事件 最高裁第1小法廷 平成12年3月9日)

つまり、朝礼などの時間も含めて、1日8時間を超えていれば、時間外として割増手当をつけて支払わなければなりません。

Check3. 代休の取得はきちんと管理していますか?

休日労働や長時間の残業をしたとき、代休を取得する場合、忙しくていつまでも取得できず、いつの間にか忘れられていませんか?

この場合、賃金の未払いになってしまいます。

また、代休を取得した場合も、割増分(時間外 25%、深夜・休日 35%)は、支払わなければなりません。

事前に休日を振り替えた場合は、割増分の支払いは必要ありませんが、就業規則の規定があり、きちんと手続きを行った場合に限られます。

Check4. 管理職はすべて残業代なしにしていませんか?

管理職は残業代がつかない。

常識としてこう考えている人もいるようですが、これが間違いであることは、「名ばかり管理職」の問題でかなり知られてきました。

労働基準法上、労働時間や休日休暇の規制を受けない管理監督者は、「課長」「部長」などの職名ではなく、実質的にどのような働き方をしているかで決まります。

具体的には、次のような基準で見ます。

  • 経営に参加する権限や人事権があるか
  • 仕事を行う上で、かなりの裁量権があるか
  • 勤務時間について、厳格な規制を受けていないか(例えば、勤怠管理や早退、遅刻に関する賃金控除の有無)
  • 十分な額の役職手当等の待遇を与えられているか

この基準は、ほかの従業員と比較して行われるので、会社ごとにケースバイケースです。しかし、タイムカードを押して、欠勤や遅刻早退控除されているようであれば、まず管理監督者とは認められません。

つまり、管理職であっても、労働時間を管理し、残業手当をつけなければならない人も存在するわけです。

「名ばかり管理職」から未払いの時間外手当の請求があると、請求額が数百万になることもあり、要注意です。

Check5. 管理監督者の深夜割増をつけていますか?

管理監督者かどうか、きちんと条件をクリアしている場合でも、ひとつだけ割増がつくところがあります。

それは、深夜勤務(夜10時から翌朝5時)です。

深夜割増については、管理監督者も適用除外ではありません。

管理監督者の深夜割増を計算するときは、役職手当も入れて計算しなくてはならないので、これも金額が大きくなる可能性が高い部分です。

Check6. 定額残業の超過分は支払っていますか?

定額残業代を支給するときは、金額がいくらで、何時間分の残業代が含まれているのか、就業規則にもきちんと記載しておく必要があります。

また、決まっている残業時間を超過したときは、その分を計算して支払わなくてはなりません。

定額残業だからといって、残業時間をまったく管理してない事業所も見受けられます。それでは、労働者から請求があった場合に、対抗する証拠もないということになります。

ここも大きなリスクとなるポイントです。

Check7. 家族手当・住宅手当の規定は確認していますか?

残業割増を計算するときに、基礎となる時間単価から除外してよい手当は、次の7項目に限られています。

  1. 家族手当
  2. 通勤手当
  3. 別居手当
  4. 子女教育手当
  5. 住宅手当
  6. 臨時に支払われた賃金
  7. 1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金

さらに、この手当は、ここに出ているような名称であればそれでOKということではなく、それぞれ条件があります。

家族手当は、家族の人数に応じて支給する方式でなければなりません。たんに扶養家族がいれば2万円、というような規定では、残業の時間単価に含める必要があります。

また、住宅手当も、実際に住宅にかかる費用の一定割合を支給する方式でなければ、残業単価の基礎からはずすことはできません。たとえば、持ち家の場合いくら、賃貸の場合いくら、という決め方では、除外することができません。

賃金台帳だけではなく、就業規則もチェックしておく必要がありますね。
 

弁護士から内容証明が来てあわてないために

この7つのチェックポイントは、とくに時間管理や給与計算を間違いやすいところです。
いっぱいひっかかったけど、どうやって直していいかわからない。
そんなときは、迷わずご相談ください。
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