AとB、あなたはどちら?

部下からなんらかの提案があった場合に、その提案を採用できないということがありますよね。
次のふたつのセリフは、どちらも「部下の提案を採用できない」という結論は同じです。

A「(部下の話をさえぎって)だめだめ。そんなの無理に決まってるだろ」

B「(最後まで話をきいて)提案ありがとう。◯◯ということだね。自分でしっかり考えてくれてうれしいよ。でも、ちょっとそのままでは採用するのは難しいね。なぜかというと~(理由を述べる)。そこを考えに入れて、もう一度提案してもらえるかな」

A の返事では、部下は仕事自体に対するやる気を失うかもしれません。
「ぜんぜんわかってない」「考えるのがめんどくさいだけ」と、上司を軽蔑するかもしれません。

同じ「採用できない」ということを伝えるのでも、Bはまったく印象が違いますね。
上司が、自分の提案を きちんと聞いてくれた、そして、自分の気持ちに配慮してくれたと、感じるでしょう。
Aのように、上司は自分の話をろくに聞きもせずに却下した、と感じるのとでは、そのあとの部下と上司の関係もまったく違ってきます。

そして、「自分の提案をブラッシュアップしよう」という、やる気も出てきますね。

Bの反応だと、その場で、ではどうしたらいいのか、という議論が始まるかもしれません。

上司があげた「できない理由」にもし納得がいかなければ「わたしはその点については◯◯だと思います」という意見も出てきやすくなります。
最初のBのことばで、「上司は自分の意見をしっかり聞いてくれる」という信頼感が部下の中にあるからです。

上司から見ると、部下の意見は、未熟で身勝手なものに感じることも多々あるでしょう。
キャリアも年齢も開きがあることが多いので、それは当然です。

その未熟さ、身勝手さを、相手が受け入れられるように指摘して、成長させていくのが上司の仕事です。

具体的にどのようにしたらよいのか

さて、Bの言葉について、もう少しくわしく説明しましょう。
原則がわかっていれば、別のことばでも、部下を納得させ、意欲を引き出すことができますね。

(最後まで話をきいて)

とりあえずは、部下から提案や意見がでてきたら、うなづきながら最後まで話を聞きましょう。途中で着地点がわかっても、さえぎってはいけません。
これができていないと、部下は「上司は自分の話に聞く耳を持たない」と感じて、提案しようという意欲さえ失います。

さらに、その次の言葉も大切です。

提案ありがとう。

このように感謝を述べることによって「提案はいつでも大歓迎」ということを部下に伝えます。

部下がしていることを「当たり前」と思わずに、「助かるよ」「ありがとう」と気軽に言えるようにしましょう。

◯◯ということだね。自分でしっかり考えてくれてうれしいよ。

これは、前半部分だけでも構いません。

ただうなづいて聞いているだけではなく、相手の提案を要約することによって、上司は自分の提案を真剣に聴き、しっかり受け止めてくれている、ということを部下に伝えることができます。

もし、この要約があまり適切でなければ、部下としては「というより、△△ということなんですが」と訂正しやすくなりますので、ちょっとくらい外していてもだいじょうぶです。
まずは、要約してみてください。

後半の部分は、「ありがとう」と述べたことの繰り返しのようですが、「自分でしっかり考えてくれた」と、より具体的に相手の行動を認めています。
さらに、「うれしい」と、上司自身の感情を「I message」(アイ メッセージ、「わたし」を主語にした言い方)で述べているのも、好感度大です。

でも、ちょっとそのままでは採用するのは難しいね。なぜかというと~(理由を述べる)。

採用するのであれば、理由は述べなくてもいいのですが(もちろん、どこがよかったか伝えてあげればなおよい)、却下する場合は必ず理由を説明する必要があります。
ここを抜かしてしまうと、いくら「ありがとう」と愛想よく述べてもだいなしです。

なぜ採用できないのか、その理由をきちんと説明したことが、Bのセリフの肝です。

もっとも、急に提案を聞かされて、なんとなくまずいな、とは思っても、すぐに不採用の理由を説明できないこともあるでしょう。
そのようなときは、「ちょっと考えてみるから、少し時間をくれるかな」でOKです。
いつごろまたその提案について話し合うのか、日時もはっきりしておきましょう。

もうひとつのポイントは、「だめ」「できない」ではなくて「そのままでは」「難しい」という言い方にすることによって、相手の感情にも配慮していることです。
率直であればいいというものではなく、このような婉曲な言い回しも身に着けたいものです。

そこを考えに入れて、もう一度提案してもらえるかな。

内容をブラッシュアップして、再提案してほしいと促しています。

提案の根本的なところに問題がある場合は、このように言えないこともあるかもしれません。
そういう場合でも、別の提案はいつでも歓迎だと伝えておきましょう。

これはひとつの例ですが、上司の行動によって、部下の意欲や学習度合いはまったく違ってきます。

「自分の部下は言われたことしかやらない」と嘆く前に、部下の自発的な行動を引き出すような反応をしているか、考えてみましょう。