ダブルワーク中に労災事故に遭ったサトウさん

サトウさんは、会社員でA社で働いています。
月給は20万円です。

あるとき、親しい友人がカフェを始め、「夜だけちょっと手伝ってくれない?」と言われて、A社の終業後に、週に2回、3時間ずつそのカフェ(B社)で働くことにしました。
時給は1,200円で1ヶ月だいたい3万円くらいになります。
この程度のアルバイトは問題ないだろうと、A社には、とくに報告しませんでした。

ところが、サトウさんはカフェで仕事中、誤って転倒し、手を骨折してしまいました。
A社では片手でできる仕事はあまりなく、手が使えるようになるまで、1ヶ月休業することになりました。

B社では、労災の手続きをすることになり、担当者から「昼間のお仕事の分のお給料も合算して、休業補償の手続きできますよ。[1]2020年9月 労働者災害補償法が改正された。複数事業労働者の労災給付わかりやすい解説A社で証明をもらってきてください。20万円と3万円の合計で23万円の8割程度が出ます」と言われました。

サトウさんはA社に労災の書類を出して、会社の証明を頼みましたが、A社の担当者に「なに言ってるんですか? うちでは兼業・副業は禁止です。そんなもの証明できませんよ」とつっぱねられました。
驚いたサトウさんが就業規則を確認すると、確かに「副業・兼業は禁止」と書いてあります。

しかし、A社の証明がもらえないために、B社の3万円の給与をもとに休業補償を計算することになったら、ごく少額になってしまいます。

また、すでにB社から医療費については労災の手続きがなされているので、A社での業務外の負傷として、病院で健康保険を使ったり、傷病手当金を受けることはできません。
[2] … Continue reading

サトウさんはどうしたらいいのでしょうか。

事業主の証明がなくても労災申請はできる

では、サトウさんのケースについての解説をしましょう。

まず、A社の担当者は勘違いをしているようです。

就業規則で「副業・兼業は禁止」と明記されていても、そのことを根拠に従業員を懲戒しようとすれば、就業規則に則って正式な手続きが必要です。

会社は労災について、基本的には証明に協力する義務があります。
担当者が勝手にペナルティが必要だと判断して、必要な証明をしてあげないのは、会社の義務違反です。
そのことを説明して、労災の書類に会社の証明をしてもらいましょう。

サトウさんの説明では会社の担当者が納得しない場合は、労働基準監督署の労災の担当者に相談すると、会社に電話をして説明してくれることがあります。

また、どうしてもA社が労災の証明に協力してくれない場合は、事業主の署名欄は空欄のまま、労災の申請をすることもできます。
その場合、労働基準監督署からA社に「証明拒否理由書」という文書を提出するよう連絡が来ます。

副業・兼業の禁止には、合理的な理由が必要

現在、厚生労働省は、副業・兼業を促進する方向ですが、「副業・兼業は禁止」という就業規則をそのまま維持している会社はたくさんあります。

しかし、会社が就業規則に禁止規定をおいているからといって、絶対に副業・兼業をしてはいけないわけではないのです。
基本的に仕事以外の時間は、労働者の自由であり、会社がそれを規制して副業・兼業を禁止するには、下記のような一定の条件が必要です。

  1. 労務提供上の支障がある場合
  2. 業務上の秘密が漏洩する場合
  3. 競業により自社の利益が害される場合
  4. 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

サトウさんの場合は、とくに上の条件に当てはまる内容ではないことから、副業を理由に、会社がサトウさんを懲戒すると、不当な処分ということになります。

会社は副業・兼業を一律に禁止するのではなく柔軟に対応しよう

副業・兼業については、厚労省から「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が出ており、会社としても、一律禁止ではなく、メリット・デメリットを考えた上、従業員の意見も聞きつつ、就業規則を見直すことが望まれます。

会社が副業・兼業を禁止すること自体はとくに法律違反ではないですが、従業員の多様な働き方を応援する意味からも、考えてみる必要のあることですね。

Footnotes

Footnotes
1 2020年9月 労働者災害補償法が改正された。複数事業労働者の労災給付わかりやすい解説
2 B社で労災の手続きをしていない場合、わからないだろうとA社の健康保険を使って受診したり、傷病手当金の請求をしたりすると、あとから健康保険に全額返還することになります。