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人気アニメ制作で長時間労働…自殺を労災認定 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

男性は「おおきく振りかぶって」など人気アニメの制作に携わっており、退社後に通院していた精神科のカルテには「月600時間労働」と記されていた。男性自身がつけていた出退勤記録でも、最大月344時間の残業が確認されたという。

長時間労働の事例は、報道をちょっと検索するだけでも山のように出てきますが、さすがに「月600時間」というのは聞いたことがなく、衝撃的でした。1ヶ月は720時間しかないのに、そのうち600時間!

アニメ制作社員の自殺 クールジャパン支える「月600時間労働」の衝撃 (産経新聞) – Yahoo!ニュース

アニメ制作の関係者とみられる人たちは、「月に300時間や400時間の労働なんて、アニメ業界では当たり前。600時間も十分あり得る」「追い込み時期は土日もなしで毎日3~4時間睡眠」などと業界の実態を暴露。

アニメ制作現場 劣悪/月600時間労働 田村氏が告発

日本アニメーター・演出協会が2008年に行った調査(728人を対象)では、アニメーターの賃金は年収200万円未満が9割で、労働時間管理がなされず、社会保険も未加入という事例が多数あった

おそらく、亡くなった方も、高給だから、このようなひどい働き方に耐えていたのではないでしょう。

この会社だけでなく、業界自体もそのような長時間労働が当たり前とされているとしたら、「これがこの業界」「キミだけ特別ではない」「これができないのなら、向いてないね」などという言葉に、ひとりの若い社員が抵抗することは難しいでしょう。異常な状況も「業界の常識」という言葉で「当たり前」に置き換えられてしまうのです。

さらに、この事件だけではなく、過重労働で体を壊した、自殺してしまったという事例を見て、みなさんが感じる疑問があります。「そんなにつらい状況なのに、なぜ辞めなかったのか?」

これについては、睡眠不足や過労が長期間続くと、正常な判断力が失われてしまい、さらに、まわりからの「これが当たり前」というプレッシャーの中にいると、「辞める」という常識的な選択肢を考えつかなくなってしまうからなのです。洗脳、つまり相手から判断力を奪い、思い通りにコントロールするためのテクニックの基本は「眠らせないこと」です。

もうひとつ、この事件の特徴は、それがアニメ業界で起こったということです。

クールジャパンという官製の掛け声はともかく、日本のアニメが海外でも人気があり、たくさんの熱心なファンがいるのは事実。もちろん、日本国内でもアニメには多くのファンがいて、アニメに関わる仕事をしたいと夢見る若い人たちは、いくらでもいるわけです。

好きな仕事だから、たいへんでも耐えられる。このような心理につけこんで、ひどい労働条件で働かせることを、よく「やりがい搾取」という言い方をします。

「ずっとやりたかった仕事」だから、長時間酷使しても、文句も言わずに働く。そして、極限まで働かせて倒れても、代わりはいくらでもいる。人手不足で悩んでいる会社からすれば、うらやましい限りの条件があったのです。

もちろん、こんなことがいつまでも続くわけがなく、いずれアニメ業界も人材不足に悩むことになるでしょう。その前に、これ以上犠牲者が出ないことを祈るばかりです。

さて、ここまで読んで「なんてひどい会社(業界)なんだ」という感想は、だれもが持つものだと思います。

でも、経営者、人事労務担当者の方には、もうひとつ考えていただきたいことがあります。

せっかく採った社員がすぐに辞めてしまう、社員のモチベーションがあがらない、という悩みについて、ひとつのヒントになる事実が、この記事の中にあります。

それは、「人は、給料が安くても、労働条件が悪くても、やりがいさえあれば、熱心に働く」ということです。

もちろん、過労死を引き起こすようなひどい働かせ方は論外ですが、そうではなくて、うちはこのくらいしか給料が出せないから、休みが少ないから、そして、人気のない業種だから、なかなか採用がうまくいかない。採用しても長続きしない、と考えているのであれば、それはちょっと違うということです。

いまやっている仕事の魅力を伝えるのは、社長、上司以外にはありません。

とはいっても、熱く語れば部下に伝わるというものでもなく、「またはじまった」「うぜぇ」と思われておわり、ということも十分考えられます。

社員、部下とのコミュニケーションをどのようにとるか、どのように仕事にやりがいをみいだせるよう指導するのか、ぜったいの正解はありませんが、ひとつひとつご相談にのっていくことで、その会社のための最適解は見いだせます。

社内のコミュニケーションを改善する、というのは、そのような意味があることなのです。