下のパワーハラスメントの6類型のうち、この稿では「5.過小な要求」について解説します。
- 身体的な攻撃
- 精神的な攻撃
- 人間関係からの切り離し
- 過大な要求
- 過小な要求
- 個の侵害
「過小な要求」とは、業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じたり、仕事を与えないことです。
多くの人は、自分の仕事にプライドをもって働いています。
仕事を与えられなかったり、自分のキャリアでは考えられないような別種の仕事を命じられたりすることは、プライドが傷つくだけでなく、職場での居場所もなくなってしまいます。
このタイプのパワハラは、多くは「人間関係からの切り離し」とワンセットで行われ、相手を自分から退職に追い込もうとするものです。
違法な退職勧奨とセットになっていることもよくあります。
ふだんの仕事とはかけ離れた仕事の例として、よく草引きや清掃等があげられますが[1]草引きや清掃が程度の低い仕事だというのではなく、命じられた人のキャリアとつりあわないということです。、まさにそれを命じて、パワハラ認定された裁判例を見てみましょう。(公益財団法人周南市医療公社事件 平成30年5月28日 山口地裁周南支部判決)
この事件は、パワハラの被害を受け適応障害を発症し休職した従業員が、休職期間満了に伴い、退職扱いとなったことを不服として訴えたものです。
結果として、退職が無効と認められ、休職後の給料・期末手当合計82万円と、574万円余りの損害賠償が認められました。損害賠償については、雇用主の公益財団法人だけでなく、パワハラを行った上司3人に、それぞれ100万、200万、300万を連帯して支払えと命じられました。
ア 本件駐車場管理命令は,本件病院の駐車場の管理,植栽,施肥,草引き(除草作業),清掃作業,駐車料金の回収等の業務を行うことを命ずるものであるところ(前提事実3(3)),〔1〕原告が経歴や資格を見込まれた管理職候補として採用されており,原告がこれまで現業に従事した経歴がなかったこと(前提事実2),〔2〕被告公社では,平成26年2月以前から,総務課職員が,駐車場の料金の回収は行っていたものの,除草作業や清掃作業等は行っていなかったことからすれば(前提事実3(4)),本件駐車場管理命令は,業務上の合理性がなく,能力や経験とかけ離れた仕事を命じるものであり,違法,不当なパワハラ行為であったといえる。
判決文より 太字は引用者
イ 被告らは,本件駐車場管理命令については,外注費用の削減,外注業者よりも原告の方が適切な管理がなされる見込みがあったなどとして,業務上の合理性があった旨主張する。
しかしながら,〔1〕外注費用として削減できるのは年間約40万円程度であり,技術を持った外注業者が複数名で行っていた管理業務を,これまで現業の経験がなかった原告の方が適切に行うことができるとは全く考えられないこと,〔2〕被告Dも,「一人の人件費ももったいない。ほとんどやってないでしょう」「駐車場に関しても」「40万円程度しか下がらないんですよ」などと発言していること(甲121の3〔15頁〕)などからすれば,被告らの上記主張は到底採用することができない。
訴えた従業員のキャリアに対して、駐車場管理(植栽・堆肥・草引き・清掃作業を含む)が命じられたこと自体がいやがらせであり違法・不当なパワハラだということですね。
また、業務上の合理性もなかったと、ばっさり判断されています。
そもそも心理的圧力を加えるような不当な退職勧奨やパワハラを行ったことについて、公社側では原告である従業員の「勤務態度・コミュニケーション能力に問題があったから」としています。
能力が低い、仕事に適性がない、勤怠不良等もよく出てくる弁解です。
それについても判決文ではこのように判示しています。
被告らが述べるような原告の問題があったとしても,前記のように,名誉感情を侵害したり,不当な心理的圧力を加えたりする違法,不当なパワハラ行為をすることは,到底正当化されない。
従業員の側になんらかの問題があったとして、配置転換したり、この職場には向かないからと退職勧奨をすること自体は違法でも不当でもありません。
しかしその際に、相手の人格を否定したり、不当な心理的圧力を加えると、配置転換や退職勧奨自体が違法になってしまいます。
相手の人格を尊重しつつ、互いの利害をすりあわせて、話し合いを行うことが求められています。
その他の類型については、下のリンクをご参照ください。
Footnotes
↑1 | 草引きや清掃が程度の低い仕事だというのではなく、命じられた人のキャリアとつりあわないということです。 |
---|