通勤途中のケガでも労災の対象になることは、みなさんご存知でしょう。

通常の労働災害は、本人の不注意でおこった事故であっても、事業主(会社)に責任があり、補償しなくてはならないことが労働基準法に定められています。ただ、それでは会社の負担があまりに大きくなってしまうので、労災保険という仕組みを作り、国がすべての会社に強制的に加入させています。ですから、会社は医療費や休業補償費を負担しなくてすむわけです。ただし、休業の最初の3日間だけは会社が補償することになっています。

ですから、労災保険は、労働者のためでもあり、会社のためでもある仕組みなんですね。

通勤災害は、通常の労災とは違って会社には責任はありませんが、仕事をする上でのリスクを担保するということで、労災とほとんど同じ補償を受けられることになっています。

ただし、家と会社の間を往復している間に起こった事故がすべて通勤災害になるわけではありません。

通常考えられる合理的な経路である、というのがまず第一の条件です。

「合理的な経路」というのは、必ずしも会社に届け出ている経路ということではありません。たとえば、ふだんはバスで通っているけれども、たまたまその日は自転車を使い、ふだんとは違う道を通って会社に向かった場合、その途中で事故にあっても、それが格別遠回りではなく常識的な範囲であれば、通勤災害が適用されます。

注意しなくてはならないのは、会社帰りにどこかによった場合です。別の場所に行くために、ふだんの通勤の経路からはずれた後に事故にあっても、それは通勤災害として保護されません。

では、通勤途中に、保育園の送り迎えをしている場合などは、会社から家への経路をはずれてしまったら、もうアウトなのでしょうか。または、仕事帰りにいつも買い物をしているような場合はどうでしょうか。

これについても例外規定があり、通常の経路をそれてしまった間だけは保護されませんが、そこからまた通勤経路に戻ると、通勤災害が適用になります。

その例外というのは、次のようなものです。

(1) 日用品の購入その他これに準ずる行為
(2) 職業訓練、学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
(3) 選挙権の行使その他これに準ずる行為
(4) 病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為

買い物、職業訓練など、選挙権、通院の4つですね。買い物は OKなのに、保育園の送り迎えはだめなの? という疑問が出てきます。

これについては、通勤災害の申請をしたのに「不支給」という結果になり、その後労働保険審査会というところに申し立てをして、結局認められた例があります。

では、仕事帰りに実家にたちよって、親御さんの介護をしたあと、家に帰る途中にもし事故にあったら・・・

これは、裁判になった事例があり、下のような判断が示されています。(国・羽曳野労基署長(通勤災害)事件 大阪高裁 平成19年4月18日)

①義父は、85才の高齢であり、両下肢機能全廃のため、食事の世話、入浴の介助、簡易トイレにおける排泄物の処理といった日常生活全般について介護が不可欠な状態であったところ、②被控訴人夫婦は義父宅の近隣に居住しており、独身で帰宅の遅い義兄と同居している義父の介護を行うことができる親族は他にいなかったことから、被控訴人は、週4日間程度これらの介護を行い、被控訴人の妻もほぼ毎日父のために食事の世話やリハビリの送迎をしてきたこと等を指摘することができる。これらの諸事情に照らすと、被控訴人の義父に対する上記介護は、『労働者本人又はその家族の衣、食、保健、衛生など家庭生活を営むうえでの必要な行為』というべきであるから、労災保険規則8条1号所定の『日用品の購入その他これに準ずる行為』に当たるものと認められる。

つまり、労働基準監督署では不支給となったものが、裁判で争って認められたわけです。

通勤災害の適用条件ひとつ見ても、時代の要請によって、法律(政令)の解釈もかわっているわけですね。