近年、通常であれば従業員を雇用するような場面で、フリーランス契約を採用するケースが増えています。

フリーランスと業務委託契約を結ぶと、従業員を雇用する場合と違い、労働諸法令の適用がないので、社会保険に加入させる必要もなく、仕事をするのに予定より時間がかかったとしても時間外割増の必要もなく、年次有給休暇を与える必要もありません。
契約期間が終われば簡単にサヨナラできるし、最低賃金の適用もなく、安全配慮義務も問われません。

会社にとってはいいことづくめのように見え、牛丼屋のアルバイトや、予備校の非常勤講師は業務委託であると主張している会社もあります。

しかし、労災や雇い止め等、なんらかのトラブルが起こった場合、業務委託契約を結んでいるからといって、外形的な契約だけを見て、「業務委託だ」と判断されるわけではありません。

労働法は、契約ではなく、実態を見るというのが大原則です。

そして「実態」については、どの点を見て、雇用している労働者なのか、フリーランスなのか判断する基準があります。

フリーランスが労働者であると見られる基準

フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン

フリーランスが労働者であるかどうかの判断には、大きくは次のような基準があり、その他の項目も含めて総合的に判断されます。

諾否の自由がない
(考え方)発注者等からの仕事の依頼や、業務の指示があった際に、受けるかどうかを自分で決められない(拒否できない)か

業務遂行上の指揮監督がある
(考え方)業務の内容や遂行方法について、発注者等から具体的な指揮命令を受けているか

拘束性がある
(考え方)発注者等から勤務場所と勤務時間が指定され、管理されているか

具体的には、次のようなことがあれば、労働者である可能性が高いと判断されます。

発注者からの仕事は、病気のような特別な理由がないと断れない

運送の経路や方法、出発時刻といった、業務の遂行に関することは、全部発注者から指示され、管理されている

発注者から、通常予定されている仕事の他に、契約や予定にない業務も命令されたり頼まれたりする

報酬は「時間当たりいくら」で決まっている

始業や終業の時刻が決められていて、始業に遅れると「遅刻」として報酬が減らされる

受けた仕事をするのに非常に時間がかかるため、他の発注者の仕事を受ける余裕が全くない

業務委託契約を結んでいても、実態として労働者だと判断されるとなにが起こるか

それでは、会社が業務委託契約を結んだフリーランスが、実際の働き方は雇用している労働者と変わらなかった場合、どんなことが起こるのでしょうか。

労働組合

上に書いた「労働者であると見られる基準」は、労働基準法上の労働者かどうかを見るものですが、労働組合法でいう労働者はもう少し範囲が広く、プロ野球の選手や芸能人が労働組合に加入できることはよく知られています。

個人事業主が加入できるいわゆる「ユニオン」と言われる労働組合はいくつもあり、Uber Eatsの配達員の労組や、ライター・カメラマン・編集者等出版関係のフリーランスが加入できる組合もあります。

会社と契約しているフリーランスがこのような労組に加入し、会社に団体交渉を申し込んできた場合、これに応じないと、不当労働行為になります。

労災

先ごろ、アマゾンジャパンとは雇用関係にないアマゾンの配達員が、労災の対象になったというニュースがありました。
それも、労働基準監督署の審査で不支給になり、審査請求・再審査請求・訴訟まで行ったのではなく、監督署の段階で認められたということで、社労士や労働関係の弁護士等には、驚きをもって受け止められました。

労働者性が問題になるのは、労災が起こってしまった場合が多いのです。

怪我をしたフリーランスが労働基準監督署に労災請求をし、上の「労働者性の判断基準」から見て、労働者であるという結論になると、労災が支給されます。

労災は保険であり、そこから支給があっても、雇っている会社が払うわけではないのですが、労災支給というよりも、それによって労働者性が認められると、他にもさまざまな影響があります。

社会保険

「労働者と判断された場合には日本年金機構に情報が提供されることになっており、この仕組みを活用して被用者保険の適用促進を図っていきたい」と述べ、対象となる事業所で働く人が労災に認定された場合には、厚生年金や健康保険への加入も促していく考えを示しました。

「アマゾン」ドライバー労災認定 “今後も個別に判断” 厚労相 | NHK | 働き方改革

労働者でフルタイムに近い働き方をしていれば、当然健康保険・厚生年金の資格を取得する必要があります。

フリーランスが労災の申請から労働者と判断された場合は、その情報が労働基準監督署から日本年金機構に提供され、「社会保険に加入してください」という通知が年金機構から届くことになります。

安全配慮義務

昨年、このような判決がありました。

フリーランスのライターの女性(27)が、ウェブ記事執筆などの契約を結んだ東京都内のエステサロンの経営者男性から性的被害を受けたなどとして、会社と男性に損害賠償などを求めた訴訟の判決で、東京地裁(平城恭子裁判長)は25日、未払い報酬約38万円と慰謝料など150万円の支払いを命じた。

セクハラ、パワハラの防止措置を定める国内法ではフリーランスは対象外。原告側は判決を「会社の安全配慮義務違反を認めた点で画期的」と評価し、代理人の長谷川悠美弁護士は「フリーランスが増えてハラスメントも横行する中、意義ある判決だ」と語った。

女性フリーライターへのセクハラとパワハラを認定 東京地裁 契約した会社と経営者に賠償命令:東京新聞 TOKYO Web

この会社と女性との契約は業務委託契約でしたが、判決では「実質的には被告会社の指揮命令の下で被告会社に労務を提供する立場にあった」つまり、「実質的には労働者だった」と認め、そこから会社の安全配慮義務を認めたというものでした。

もちろん、相手がフリーランスだからといってセクハラをしていいわけではありませんが、労働者性を認められると、会社に対してより強いセクハラの防止義務が求められます。

解雇や雇止めが無効に

また、予備校と業務委託契約を結んだ講師が、契約を解除されたことについて、中央労働委員会が、講師の労働組合法上の労働者としての地位を認め、「雇止め」の無効を命じたという事案もありました。

「法人の事業遂行に不可欠かつ恒常的な労務供給者として事業組織に組み入れられており、業務委託基本契約や個別契約の内容は、一部を除き、会社が一方的、定型的に決定しており、委託契約講師の報酬は、法人に対する労務供給に対する対価であると認められる。

(中略)

 広い意味での指揮監督下の労務提供と一定の時間的場所的拘束が認められる。他方、委託契約講師について、顕著な事業者性は認められない」

 以上の判断から、佐々木氏を事業者ではなく、法人との関係で労働組合法上の労働者であると認定した。

河合塾で勤務する佐々木氏以外の業務委託契約の講師についても労働者として認定:河合塾、講師を突如「雇い止め」 | ビジネスジャーナル

これも契約の外形ではなく、実質的な働き方を見て、労働者性の判断をしています。

実態も業務委託だとしても、下請法・独禁法の適用がある

労働者を雇用するのと同じような内容の働かせ方をして、契約書だけ「業務委託契約」としても効果はなく、なにかトラブルがあって労働者性が認められると、かえってやっかいなことになるのは、もうおわかりでしょう。

では、通常の業務委託契約の場合、力の弱いフリーランスに対して、組織としての力を持っている会社が好き勝手にできるかというと、そうではありません。

筆者は社会保険労務士として企業と顧問契約を結んだり、社内研修の講師を依頼されたりしています。
仕事の諾否の自由があり、依頼した企業から指揮命令を受けているわけではないので、通常の意味での業務委託にあたります。

このような場合、労働者としての保護はありませんが、下請法、独占禁止法、そして、まだ施行日は決まっていませんが、来年から施行される「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)の規定により、フリーランスが不利益を受けないよう、会社側にさまざまな義務が課されています。

この点も確認しておきましょう。

フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ |厚生労働省

人を雇う義務を逃れるためではなく、契約の本旨に従って契約内容を選択しよう

フリーランスとの契約は、高度な専門性が期待でき、ひとつのプロジェクトや業務だけでも契約できる、スピードと効率性がある等、自社の従業員に同じ業務を行わせたり、新たに人を雇い入れるのと比べ、さまざまな利点があります。

プロに外注することが適切である場合は、業務委託契約を結ぶことになります。

一方で、フリーランスと契約する場合、他の会社とも仕事をしているのがふつうですので、会社側の期待する通りのスケジュールで進むとは限りません。
業務命令として一方的に命令するのではなく、相手との話合いで、日程や条件が決まります。
従業員と違い、会社への忠誠心もないので、「ちょっと無理してでも会社の都合に合わせてください=残業してください」というわけにもいきません。
もちろん、プロに頼むのですから、高額な費用がかかることもあります。

それよりも、既存の従業員に勉強してもらってその業務を行わせる、または、新たにその業務を行う能力のある従業員を雇い入れるほうが、会社にとってのメリットが大きい場合もあります。

人件費削減や社会保険料の削減のために、従業員を雇用するほうが向いている業務をフリーランスに委託すると、なにかとトラブルのもとです。

当たり前のことではありますが、なんのための契約なのか、ということを再度確認し、業務委託契約と雇用契約を賢く使い分けていきましょう。