研修のご依頼を受けると、次のように言われることがよくあります。

「セクハラについては、もうわかっているので、かんたんに触れるだけでけっこうです」

ところが実際に研修を行うと、「わかっていた」はずなのに、「そんなの初めて聞いた」という声が多数出てくる、ということが珍しくありません。

確かに、厚労省で出ている各種パンフレットを見ると「そのくらいわかってるよ」と言いたくなるのも理解できます。

たとえば、セクハラの具体例について書いた部分を見てみましょう。

①性的な内容の発言
性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報(噂)を流布すること、性的な冗談やからかい、食事やデートへの執拗な誘い、個⼈的な性的体験談を話すことなど
②性的な⾏動
性的な関係を強要すること、必要なく⾝体へ接触すること、わいせつ図画を配布・掲⽰すること、強制わいせつ⾏為など

職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました︕~ ~ セクシュアルハラスメント対策や妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策とともに対応をお願いします ~ ~

上に書いてあることについては、多くの方がセクハラだと認識しているでしょう。常識だと言っていいかもしれません。

しかし、現在職場で問題になっているセクハラは、上にあるような「セクハラの常識」で割り切れるようなものだけではありません。

よく問題になるのはこのふたつです。

  • 容姿や外見についてあれこれ発言する
  • 男女役割分担意識に基づいた発言をする

被害を受けた側がはっきりと「セクハラだ」と思っているのに対して、被害を与えている側は「これのどこがセクハラなんだ?」「そんなことまでいちいちセクハラと言われたら話もできない」等と言って開き直っているのが現状です。

しかし、このふたつのパターンについては、人権侵害であり不法行為だという多くの判例があります。

「こんなことがセクハラになるとは知らなかった」「自分はセクハラだと思わない」からといって、このような言動を続けていると、相手に大きな苦痛を与え続けることはもちろん、自分自身もハラスメント行為者として相談窓口に通報され、懲戒されるはめにもなりかねません。

それぞれ判例を見てみましょう。

容姿や外見についてあれこれ発言する

小学校の校長(原告)がセクハラを理由に教育委員会から懲戒され、その懲戒処分が無効だとして訴えた事案です。

その懲戒処分に不当性はない(セクハラだったという判断が正しい)という判決が下りました。

本件対象行為ないしこれに関わる上記認定事実は,いずれも,異性職員の容姿,体型及び服装等を取上げてそれに一定の評価を加える言動や,相手方からすれば,異性関係を詮索されたと受け取れる言動,異性職員のみとの私的な飲食会や旅行に誘う言動である。そうすると,これらがそれらの言動を受けた相手方を不快にさせる職場の内外における性的言動又は性的な関心に基づく言動であるとして,セクハラに当たると評価した被告処分行政庁の判断に何ら不合理な点はない。(太字は引用者)

(平成30年3月27日/福島地方裁判所/判決/平成28年(行ウ)第4号)

具体的になにを言ったかというと、次のような発言でした。(被害者は複数人いますが、区別せずに記載します)

「好みのタイプだ」

「もう少し短いスカートを履いたら」

「お綺麗ですね」

「スタイルがよいですね」

「旦那さんがうらやましい」

容姿を侮辱したわけではなく、ほめています。しかし、外見や服装をあれこれ言うことは、言われた側にとっては性的な対象として見られているということですから、気持ち悪く不快だったわけです。

判例ではありませんが、次のように容姿や服装を侮辱するのは、完全にアウトだということはおわかりでしょう。

「足が太いのにそんな短いスカートはいて・・・」

「また太ったんじゃない? ダイエットしたほうがいいんじゃないの?」

「(セクハラ発言をとがめられて)ブスのくせになに勘違いしてるんだ」

男女役割分担意識に基づいた発言をする

最高裁判決の際に「ことばのセクハラ」としてかなり話題になった判決です。

問題になった発言の一部をご紹介しましょう。

「いくつになったん」「もうそんな歳になったん。結婚もせんでこんな所で何してんの。親泣くで」

「30歳は,二十二,三歳の子から見たら,おばさんやで」

「もうお局さんやで。怖がられてるんちゃうん」

「精算室にAさんが来たときは22歳やろ。もう30歳になったんやから、あかんな」

「30歳になっても親のすねかじりながらのうのうと生きていけるから、仕事やめられていいなあ。うらやましいわ」

「お給料全部使うやろ。足りんやろ。夜の仕事とかせえへんのか。時給いいで。したらええやん」

(平成27年2月26日/最高裁判所 第一小法廷/判決/平成26年(受)第1310号)

判決においては、上の発言はこのように評価されています。

同一部署内において勤務していた女性従業員らに対し、管理職らが職場において1年余にわたり繰り返した発言等の内容は、いずれも女性従業員に対して強い不快感や嫌悪感ないし屈辱感等を与えるもので、職場における女性従業員に対する言動として極めて不適切なものであって、その執務環境を著しく害するものであった(太字は引用者)

なお、公務員の人事関係を司る人事院のセクハラに関するサイトでは、次のようにはっきりと書かれています。

●性的な言動の内容
「性的な言動」とは、➀性的な関心や欲求に基づくものをいい、②性別により役割を分担すべきとする意識に基づく言動、③性的指向や性自認に関する偏見に基づく言動も含まれます。(太字は引用者)

セクシュアル・ハラスメント

さて、あなたの「セクハラの常識」はだいじょうぶだったでしょうか。古い常識をそのままにせず、適切にアップデートするためには、個人の努力に任せるのでは不十分です。職場で定期的に研修することが必要ですね。