人前で叱るのはパワハラか

「叱るときは別室で、ほめるときは人前で」というのは、管理職になった人ならば、当然の心得として聞いていることですね。

しかし、現実はそんなに単純にはいきません。

ある部下をみなの前でほめたら、「なぜあの人ばかりほめられるのか」とほかの部下が不満を抱くということもあります。

また、別室に呼んで注意したいが、自分としてはおだやかに話しても、「理不尽に圧迫された。パワハラだ」と言われたらどうしたらよいのか。目撃者もいないので、抗弁が難しいのではないか、という悩みを寄せられたこともあります。

とくに叱ることについては、判断ポイントがいくつかあります。ひとつずつ見ていきましょう。

叱られているのはどのような問題か

ハラスメント防止研修で、「人前で叱ってもそれほど問題ないとき」の例としてよく出されるのは、こんな事例です。

遅刻してきた部下を、みながいる前で「だめじゃないか、遅刻ばっかりして」と、大声を出さずに叱った。

「会社に遅刻してはいけない」という規範に異論がある人はほとんどいないでしょう。価値判断がみなに共通している問題です。

また、「遅刻ばっかり」という言葉から、1回や2回ではないことがわかります。これも、注意されて当然という価値判断を共有する人がほとんどですね。

このような場合は、かりに人前で叱っても、叱られた人は屈辱感を感じにくくなります。

叱られる部下は精神的に敏感か

管理職の方に話を伺うと、「どの部下にも公平に」ということに気を使っている人が多いようです。しかし、「どの部下にも同じ態度で接する」というのが、「公平」かというと、違う場合もあります。

人前で叱られてもあまりへこまないタイプと、ちょっとしたことでも「わざわざみなが見てる前で言わなくても・・・課長は無神経すぎる」と思うタイプを見分けて、性格にあった対応をしましょう。

ただ、「この人は明るくてムードメイカーだから、人前で叱ってもだいじょうぶ」と思っていると、雰囲気を壊すのを恐れて、周りに合わせて笑っているだけで、本人は深く傷ついている場合もあります。

大声でどなったり、ねちねち長時間叱っていないか

遅刻の例をもう一度見てもらうと、大きな要因がもうひとつあります。大声を出さずに、短く一言で叱っていますね。

どなりつけたり、長時間ねちねち叱ると、本人だけでなく周りの人もいたたまれません。「わざわざ人前でさらし者にして叱っている」と思われる可能性大です。

人前ではなく、別室に呼んだ場合でも、これはよくない叱り方ですが、とくにほかの人が見ている前では厳禁ですね。叱るときは、理由をきちんと示して、なるべく短く、おだやかな言い方を心がけましょう。

相手の人格や性格、変えられない属性を侮辱していないか

また遅刻の例に戻りますが、このような一言を付け加えたらどうでしょうか。

「時間を守らないのは、性格がだらしない証拠だ。だからお前はだめなんだ」

「化粧に時間かかっちゃった? 女はこれだから・・・」

「遅刻ばかりするなんて、社会のルールがわかってないな。幼稚園からやり直せ」

「仕事したくないんなら、もう帰ったらどうだ? やる気のないヤツはいても迷惑だ」

注意するために、このように相手を侮辱する必要はありません。「遅刻した」という「事実」に的をしぼって、注意すればよいだけです。

これもまた、人前かどうかに関わらず、しょっちゅうやっていると「パワハラ上司」と部下に思われる叱り方です。人前でやると、叱られる側にとっては、よけいに屈辱的ですね。

「叱る」のではなく「事情を聞く」スタンスならばパワハラと思われにくい

最後に、「別室で叱ると、パワハラだと相手が思い込んだりウソをついても、抗弁が難しい」という問題についてご説明しましょう。

遅刻の例を考えると、軽く注意してすませるのではなく、別室に呼んでしっかり話を聞く必要があるかもしれません。この場合、別室に呼ぶのは、個人的な事情が出てくる可能性が高いためです。

「職場のだれもが叱られて当然と思う問題」であっても、病気や家庭の事情等、人前で言いたくない理由が隠れていそうなときは、やはり別室に行くべきですね。あくまでも「叱る」ためではなく、「事情を聞く」ためであるとはっきりさせておけば、「圧迫された」「パワハラされた」という感情を相手が持つ可能性も低くなります。

「一方的に叱るのではなく、相手の事情を聞く」「解決のためにともに考える」、つねにこの姿勢を貫いていれば、部下との間に信頼関係が生まれるので、「パワハラされた」と誤解されることもなくなるでしょう。