ハラスメントの相談が会社によせられると、次にするべきことは、事実確認です。
一般の会社では、裁判所のように証拠調べ等は通常できませんので、関係者に話を聞いて判断することになります。
そう、行為者[1]ハラスメント行為をしていると相談者から言われている人。この時点ではまだ加害者かどうかわからないので、このように表現する。へのヒアリング調査ですね。
ここでつまづいてしまい、うまくいかなくなって、ご相談いただくことがよくあります。
人事労務担当者は、基本的なやり方を心得ておきましょう。
1.ヒアリングの前提
まず、ヒアリングを行う前に、次の点を確認、準備しておきましょう
a. 相談した人が行為者への調査に同意しているか
ヒアリングを行う、と決定したということは、相談に来た人(ハラスメントの被害を受けていると訴えている人)が、「行為者に自分の名前を出して、事情を聞いてよい」と同意しているのが前提です。
ときどき、「どうしても、行為者にわたしが相談したことを伝えたくない」と主張する人がいますが、そうなると調査自体がほとんど不可能になります。
だからといって、「この話の様子だと、たぶん同意しているだろう」で、見切り発車してしまうと、「そんなつもりじゃなかった。会社は同意もなく勝手に行為者に話を伝えた」と相手が言い出し、会社と相談した人の間でトラブルになることがあります。
必ず明示的に同意してもらうようにしましょう。
b. ヒアリングする人の人選は適切か
行為者ヒアリングができるような人が社内にいない。
行為者が社長(または、役員)なので、だれもヒアリングしたがらない。
こういう場合、困ってしまいますね。
また、相談に来た人の言ったことをすべて事実だと考え、予断をもったヒアリングをしてしまうのも、トラブルのもとです。
こういう場合は、無理に社内でヒアリングして、不十分な調査内容を残すのではなく、社外の専門家に依頼することを考えましょう。
C. どのような質問をすればよいのか、事前に部署内ですり合わせる
相談者からの話をもとに、どのような点を確認すべきか、質問事項を前もって用意します。
そのとき、ヒアリングにあたる人がひとりで考えるよりも、担当部署内で検討するほうがいいですね。
ここで、どの程度準備するかが、行為者ヒアリングの成否を分けます。
2.ヒアリングの目的を伝えて来てもらう
通常は、会議室等のプライバシーを保てる場所に呼び出してヒアリングをします。
ふつう、呼び出してから、1日以上の時間があるので、その間に証拠隠滅したり、いろいろ工作されると困る。
こんなふうに考えて、まずは来てもらって、それから目的を説明しようとしていないでしょうか。
ヒアリング調査の前の段階では、まだハラスメント行為があったかどうかわかりません。
相手は、これからもずっと働いてもらう社員です。
「ちょっと聞きたいことがあるので、来てもらえませんか?」と目的を隠して呼び出すと、相手は「だまし討ちだ」と考えて、会社との信頼関係にヒビが入ることがあります。
必ず「ハラスメント行為を行っているとの訴えがあり、事実関係を調査したいので、話を聞かせてほしい」と、本来の目的を告げて来てもらいましょう。
3.ヒアリングの最初に必要事項を確認・説明する
行為者ヒアリングの最初には、まずプライバシーが守られることを説明します。
そして、相談した人に対して、「よくも会社に言いつけたな!」と、報復しないよう厳しく戒めておく必要があります。
「報復しないように」と抽象的に伝えるのではなく、もっと具体的に、相談者と接触しない、この件について社内の第三者に口外禁止であると伝えたほうが、なにをしてはいけないのか、相手もよくわかります。
そして、記録のために、録音の許可をとりましょう。
筆者の経験では、イヤだという人はめったにいませんが、もし相手が同意しなければ、記録する方法(だれかが同席してメモする等)も確認します。
相談に来た人がメンタル不調に陥っていたり、または、証拠があって、事情を聞く前からハラスメントの事実があることがある程度確認できている場合は、席変えをしたり、ふだんとは違う仕事をしてもらう等して、一時的に双方を引き離す措置をとることがあります。
この場合は、その内容も説明しましょう。
事情を聞くのに急ぐあまり、これらの確認をないがしろにすると、行為者から思わぬ反撃にあうことがあります。
調査の最後にしてもよいのですが、決して忘れてはいけない内容なので、最初にやっておくほうがよいでしょう。
4.事実確認のやり方
「あなたは○○と言いましたか?」「○○のような行為をしましたか?」と、「はい、いいえ」で答えられる質問(クローズドクエスチョン)よりも、「○○の点について、事情を教えてください」等のオープンクエスチョンで尋ねるほうが、相手も自由に話せるので、事実に迫りやすくなります。
犯人扱いして、尋問のようにならないよう、注意してください。
相手を尊重する態度を忘れないようにしましょう。
また、相手が明らかに心得違いをしていても、その場で指導してはいけません。
「そういうことを言うから、パワハラと言われてしまうんですよ」と言いたくなることもあるでしょうが、まずは事実を聞き取るということを最優先にします。
いまは、なんのために相手の話を聞いているのか、忘れないようにしましょう。
最後に、聞き取った内容について、メモを見せる等して相手に確認し、認識の食い違いがないようにするのも、大切です。
5.今後の進め方についての説明
事実確認が終わったら、質問を受け付けます。
「今後、自分はどうなるのか?」ということが、ヒアリングを受けた人の最大の関心事ですので、そのような質問が出ることが多いでしょう。
もし、質問がなくても、今後の対応の流れについて、かんたんに説明しておくと、相手も多少は安心して仕事に戻れます。
あとでなにか思い出したり、さらに説明したいことがあれば、担当者を決めて受け付ける旨、話しておくとよいですね。
また、次のようなことも伝えておいたほうがよいでしょう。
- 被害者への報復禁止、この件についての口外禁止を再度確認
- 懲戒ではなく職場環境調整のため自宅待機や配置転換がありうることを説明
- 相談者の言い分と食い違っていることについては、再度相談者にヒヤリングする
- 検討した結果、懲戒処分が下ることもありうる
- 決定までおおよそどのくらい時間がかかるか
いままで見たように、注意点はたくさんあり、どれをとばしてしまっても問題になりかねないので、チェックリストを用意する等して、確実にこなしましょう。
ここまで読んで、やはり社内では難しいと思った場合は、メンタルサポートろうむにご相談ください。
オンライン上で相談、面談できるので、全国の事業所様からご依頼を受けています。
Footnotes
↑1 | ハラスメント行為をしていると相談者から言われている人。この時点ではまだ加害者かどうかわからないので、このように表現する。 |
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