労務管理に問題があり、民事で訴えられるリスク。
これはすべての会社が抱えているものです。

中小企業は、労働基準法なんて真面目に守っていたらつぶれてしまう。
うちは、残業多いけど、従業員はみな元気に働いている。

このように簡単に考えていては、そのリスクはどんどんふくらんでいきます。

長時間労働「未発症」でも慰謝料を 異例の判決:朝日新聞デジタル

判決は、男性が2017年6月に退職するまで約2年間、残業時間が毎月、過労死ラインとされる月80時間を上回る90時間を超え、最長160時間におよんでいたと認定。タイムカードからわかる男性の労働状況について注意を払わなかったなどとして、会社の安全配慮義務違反を認めた。

そのうえで、「男性の心身の不調を認める医学的証拠はない」としながらも、「疾病の発症にいたらなかったとしても、会社は安全配慮義務を怠り、心身の不調をきたす危険がある長時間労働に従事させた」と指摘。未払い残業代に、精神的苦痛に対する慰謝料30万円を含めた計約480万円の支払いを命じた。

まだ地裁判決で、会社側は控訴するということですので、今後の展開はわかりません。

従来の安全配慮義務についての判例を見ると、従業員になんらかの損害があった、つまり心身に不調があった、ということを根拠に、会社が義務を果たしていなかった、という論理になっています。
今回の判決が「異例」とされるのは、ここからです。

しかし、労働分野以外の慰謝料認定の考え方を見ると、この判決の論理は、それほど無理筋とも言えません。

慰謝料とは、なんらかの違法行為があったとき、その肉体的・精神的な苦痛を補償する意味合いで支払われるものです。
肉体的苦痛については、受診状況や医療機関の証明などがありますが、精神的な苦痛については、直接それを計ることはできません。
ですから、相手方に違法行為があり、因果関係がはっきりしていれば、慰謝料が認められるのがふつうです。
メンタル不調の症状が出ているかどうかということは、判断材料の一部であって、それがないから精神的苦痛に対する慰謝料が認められないということはありません。

今回の判決でいえば、これだけの長時間労働があれば、一般的な労働者は精神的苦痛を感じるというのは常識で考えてもわかることなので、「異例」ではあっても、「特異」な論理とは言えないでしょう。

このような精神的苦痛への慰謝料に関する一般的な考え方が、労働分野でもこれから主流になるのか、いまの段階ではなんとも言えません。
論理的におかしな構成でないことははっきりしているので、このような流れになっても、不思議はないな、というのが、現在の感想です。

90時間以上、最長は160時間の残業が行われているのに、この会社のように「必要な配慮はしていた」という苦しい弁明をしないですむよう、そもそも時間管理をしっかりやっていく必要があります。

残業を削減したいけど、どこから手をつけていいかわからない、という場合は、ぜひご相談ください。