ほとんどの会社ではハラスメント相談窓口が設置されています。しかし、その内実は、ただ担当者を決めただけ、就業規則やハラスメント防止規程に「相談窓口を設置する」と入れただけ、という会社が多いのではないでしょうか。
そもそも窓口が設置されているのかいないのか、だれが、またはどの部署が担当なのかということも、決めてからしばらくたつと、忘れられていることさえあります。
そこまでひどくなくても、相談窓口担当者が相談を受けたあと、どのように対応するか決まっていますか。そこがはっきりしていないと、相談を受けても担当者がどうしたらよいかわからず放置してしまう可能性もあります。
ハラスメント事案が深刻化し、会社の責任が問われる場面になったとき、そんな状態では、ハラスメントの加害者だけでなく、法律で決められた措置義務(なんらかの対処をすること)を取っていなかった会社の責任は免れないでしょう。
では、相談窓口設置後に会社が行うべき対策はなんなのか、5つのポイントでみてみましょう。
1.担当者向け相談対応マニュアルを用意する
相談が来たときに、相談担当者がどのように話を聞いたらよいのか、マニュアルを用意しておきましょう。
「ただ話を聞くだけでしょ?」と簡単に考えていていけません。なんの知識もない状態では、心ない言葉を言ってしまったり、プライバシーが守れなかったりして、相談した人に二次被害を与えてしまうことがあります。
相談担当者が不適切な言動をとってしまうと、会社の対応の問題となり、裁判などで会社の責任を追求されるもとになります。なにより、ハラスメント問題がこじれ、解決が難しくなってしまいます。
相談対応マニュアルは、とくに会社のオリジナリティーは必要ないので、市販の書籍等を探して用意しましょう。
厚労省監修のものがよければ、あかるい職場応援団のハラスメント関係資料ダウンロードページに「参考資料9 パワーハラスメント社内相談窓口の設置と運用のポイント」があります。
上記はセクハラ・マタハラについては記載がないので、ハラスメント全般についての対応が知りたいときは、下記資料のほか、市販の書籍を探してみてください。
改訂版 職場のハラスメント 相談の手引き 相談対応の基礎から応用まで – jiwebook - 21世紀職業財団
ハラスメント対応についての考え方は、時代によって移り変わっていますので、あまり古いものはおすすめできません。書籍を利用するときは、最新版を探してください。
2.相談があったときの会社の対応を決める
ハラスメント相談が来たら、事実確認のために、行為者や、場合によっては同僚等関係者にヒアリングをしなければなりません。ヒアリングはだれがどのようにするのか、決まっているでしょうか。
事実確認の内容をふまえ、ハラスメントの行為自体がなかったと判断するのか、行為があった場合、行為者に懲戒処分を課すのか、注意ですませるのか、等も決めなければなりません。その決定はだれが、どのようにするのか、これも決めておく必要があります。
具体的には、その事案に対応するための臨時の委員会をつくり、そこで協議して決める場合がほとんどです。その委員会の人選はどうするのか、事前に決めておきましょう。
このような対応を怠ると、会社の措置義務違反になることは明らかです。また、ハラスメント対応はスピードが重視されますので、実際に相談が来てから、上記の対応について決めるのでは遅すぎます。
相談窓口を設置したら、いつ相談が来てもいいように、相談後の会社の対応を決め、文書として残します。ハラスメント防止規程の一部に盛り込むのもよいでしょう。
3.相談担当者に研修を受けさせる
パワーハラスメント社内相談窓口の設置と運用のポイントには、《窓口担当者が言ってはいけない言葉や態度》として、次の10項目があげられています。
- 「パワハラを受けるなんて、あなたの行動にも問題(落ち度)があったのではないか」と相談者を責める
- 「どうして、もっと早く相談しなかったか」と責める
- 「それは、パワハラですね/ それは、パワハラとは言えません」と断定する
- 「これくらいは当たり前、それはあなたの考え過ぎではないか 」と説得する
- 「そんなことはたいしたことではないから、我慢した方がよい」と説得する
- 「(行為者は)決して悪い人ではないから、問題にしない方がいい」と説得する
- 「そんなことでくよくよせずに、やられたらやり返せばいい」とアドバイスをする
- 「個人的な問題だから、相手と二人でじっくりと話し合えばいい」とアドバイスをする
- 「そんなことは無視すればいい」とアドバイスをする
- 「気にしても仕方がない。忘れて仕事に集中した方がよい」とアドバイスをする
一度や二度マニュアルを読んだからといって、これが全部頭に入るでしょうか。
また、相談窓口担当者の人選について、次のように書いてあります。
相談担当者は、ハラスメントや人権問題に対する十分な理解を持つ者を選任します。
これに関しても、通常の常識を持つというだけでは足りない、知識や心構えが必要です。
このような内容を身につけるには、相談担当者個人の努力だけでは限度があります。会社が、研修等教育の機会を用意して、相談担当者のスキルアップを図る必要があります。
社内研修では難しい場合は、社外のオープンセミナーを利用することも考えてみましょう。
4.社外相談窓口の利用を検討する
ハラスメント相談窓口の担当者には、人柄もスキルも高いレベルが求められます。または、会社の負担で教育・研修をして、そのような人材を育てる必要があります。
単純に「総務部ので男女各ひとりずつを相談担当とする」という決め方では、相談担当者としては不足な場合が多いでしょう。社内でそのような人材を養成する余裕がない場合、外部相談窓口の利用することもひとつの方法です。
外部相談窓口についてくわしく知りたい場合は、こちらをご覧ください。
5.従業員に何度も周知する
相談窓口を設置したとき、従業員には文書で通知した。社内イントラネットで相談したいときの連絡先がわかるようにしてある。壁には相談窓口を知らせるポスターが掲示してある。
ここまでやってあれば、会社の措置義務はつくした、と思われるような対応ですね。
しかし、これでは、だいじなポイントが抜けています。
そのポイントとは「何度も」「くりかえし」周知する必要があるということです。
文書の配布は設置したときの1回のみになっていませんか。新たに入社した従業員にはもちろん、既存の従業員にも、1年に1回は相談窓口に連絡先を知らせましょう。カード型にして手元におけるようにするとよいでしょう。
だれでもわかるところにポスターを貼っていたとしても、時間が立つと壁の一部になってしまい、そこに相談窓口の連絡先があるということすら、意識に上らなくなってしまいます。内容は同じで、色を変えるだけでもよいので、ポスターは最低1年に1度は貼り替えましょう。
定期的に研修を行い、そのたびに相談窓口を周知するのも効果的です。