2024年4月1日より改正障害者差別解消法が施行され、障害者への不当な差別的取扱いの禁止とともに、「合理的配慮」の提供が義務化されました。
マスコミでもたびたび取り上げられたので、話題を目にした方も多いでしょう。
この改正は、商店やサービス業の会社や団体が義務を課され、対象となるのは、その顧客や来店する障害者の方たちです。
しかし、顧客ではなく会社に雇われている従業員については、同様の内容が、すでに「障害者の雇用の促進等に関する法律」によって2016年から義務化されています。
障害者の法定雇用率は2024年4月から2.5%となり、従業員が40人以上の企業がその規模に応じて障害者を雇用する義務を負っています。法定雇用率は、2026年から2.7% となることが決定していて、すでに「大企業のみの義務」ではなくなっています。
そんな中で、「合理的配慮」について、少しおさらいしてみましょう。
合理的配慮は過重な負担にならない範囲でよい
合理的配慮についての大きな誤解は、「障害者がリクエストを出したら会社はそれを断ることができない」というものでしょう。
もちろん、法律でそんなことは求められておらず、次の点を考慮して「これは無理だな」と思ったら、障害者から「こうしてほしい」という要望が出ても断って構いません。
- 事業活動への影響の程度
- 実現困難度
- 費用・負担の程度
- 企業の規模
- 企業の財務状況
- 公的支援の有無
要は、いままでやったことのないことを求められたとき、「そんなのムリ」と簡単に決めずに、上にあるようなさまざまな事情を考え合わせ、なんとかできる方法はないか、検討してみることが必要なのです。
さらに、障害者からの要望は、必ずしもその通りでなくても、目的をよく尋ねて、その目的を達するために、別の方法があれば、その方法をとることもできます。
ただし、要望を断ったり、代替措置をとるときには、対象となる障害者に理由を説明し、理解を求めることを忘れないでください。
要望の目的をよく聞き取る
合理的配慮を行うには、障害者から「こういうふうにしてもらったら、もう少し働きやすい」という要望を出してもらう必要があります。
あくまでも要望ですので、実現可能性が低いものであったとしても、「そんなムリなこと言われても」と、腹を立てたり、当惑することはありません。
障害者の側は、その要望を実現するためにどのくらいの費用や労力がかかり、業務への影響があるのか、わからない場合が多いでしょう。
そこを検討するのが会社の仕事です。
その要望によって、なにが達成したいのか、その点をよく聞き取り、それに合った、実現できるような答を探すことが大切です。
上の画像にある例を、職場だと思って考えてみると、「発達障害の人から、外から大きな音が聞こえたら仕事に集中できないので、防音窓にしてほしいという要望があった」と置き換えることができます。
求めているのは「防音窓」ではなく、「静かな環境」です。
「静かな環境」を達成するために、上のパンフレットの例では「イヤーマフ」「コミュニケーションをするときの配慮」という代替策を用意しています。
静かな環境は、もちろん他の働く人たちにとっても大切なことですので、長期的には防音窓等、設備の側の対策を考えてみるのもよいでしょう。
個別の要望に対応することは障害の有無に関わらず必要
障害者といっても、障害の内容や程度はさまざまです。
その人の性格や家庭環境等の違いによっても、「どのようにしたら働きやすいのか」という答はいろいろでしょう。
そこで、難しいと考え込む必要はありません。
目の前に、職場の仲間である対象者がいるのですから「どうやったら働きやすいと思う?」と尋ねてみればいいだけです。
そう考えると、職場の中にいるさまざまな個性を持った人に対して、なんらかの個別の配慮をすることと、とくに代わりがないことがわかるでしょう。
たとえば、冷房が強すぎて体が冷えて困っている人がいたら、席替えや、風向きの調節をするルーバーや、温度設定を職場内で話し合うことで、その困り事を解消することができます。
そんな個人の都合でいちいち会社に対処してもらうなんて…、と本人が遠慮して要望を出さずにがまんしていて、冷えから体調不良になったら、仕事にも差し支えてしまい、本人だけでなく、会社としても困ったことになります。
要望を遠慮なく出すこと、そして、職場全体でどうしたらその人が働きやすくなるか考えること、そのくりかえしで働きやすい職場はできてくるのです。
また、個別の配慮は、その人だけのためではなく、ほかの人にもよい影響が出てくることも多いでしょう。
上に書いたような温度調節の問題であれば「暑くて困っている」「足元が冷えて困っている」等、さまざまな要望に対応することも、同時に考えることになります。
その対応を個人任せにするのではなく、職場全体として考えよう、というのが「合理的配慮」という考え方なのです。
職場は、いまのところ、障害のない人向けにデザインされているので、障害者がその中で働こうとすると、さまざまな不都合が出てきます。
職場の誰に対しても合理的配慮は必要ですが、その中でもとくに、急いで対応しなければならないのは障害者だと考えることができます。
まず必要なのは、働いている人と会社との話し合いです。
障害者への対応からはじめて、職場全体で、「これでは困る」「もっとこうなったらいいのに」を、話し合いで解決できるようになれば、心理的安全性の高い、よい企業風土を作ることができるでしょう。