プサンの壁画
アートな壁画と朝のおそうじ。プサンにて。

交通事故と通勤災害

労災というと、工事現場や工場での事故、というイメージがあるようです。

確かに、それは労災が多い場所ではあるのですが、一般のオフィスワーカーの方が労災の手続きをするのは、実は交通事故という場合が多いのです。それも、仕事で外に出かけている最中よりも、通勤途中のほうが、事故にあってしまう可能性が高いでしょう。

通勤途中の事故も、通勤災害ということで、通常の労災と同じく労災保険から医療費や、休業補償の支給があります。

相手方(加害者)がいる事故の場合

交通事故でケガをしたような場合に相手方(加害者)があるときには、自賠責保険や相手の任意保険もからんできますし、過失割合の問題もあり、対応が複雑になります。

軽微な事故であれば、損害賠償も自賠責保険の範囲ですむので、難しくありません。しかし、ケガがひどい場合は、自賠責の120万円ではとうてい足りませんので、労災(通勤災害)の手続きもし、相手方とも交渉しなければならなくなります。また、場合によっては自賠責の請求を被害者側が行うこともあります。

仕事中の事故の場合は、会社も当事者として相手方との交渉に関わってくれますが、通勤災害の場合は、本来会社に責任はないので、労災の手続きはしてくれても、それ以外の交渉などは本人がやる、いう場合が多いでしょう。やはりそういう場合は、専門家に相談することをおすすめします。交通事故をよく扱っている弁護士、または、社労士であれば、損害保険の代理店を併設しているところが慣れているかもしれません。

これだけは必ずおさえておくべきこと

自分で対応する場合には、これだけは必ず知っておかなければならないということがあります。

交通事故で加害者があるときに、労災保険から給付を受けると、あとで労災保険から加害者にその分の請求がいきます。つまり、労災保険が、加害者が支払うべき損害賠償を一時立て替えているということです。加害者への損害賠償請求権が、労災の給付の基本にあるわけです。

不用意な示談に注意

まだ治療中で損害額が確定していない段階で示談をし、「◯◯万円を受け取り示談とする。これ以外には、両当事者に一切の債権債務がないことを確認する」というような文言をいれると、示談が成立した日以後の損害賠償の請求権を放棄するという意味になります。

そうなると、加害者に請求する権利がなくなるだけでなく、労災保険にも請求権がなくなってしまいます。つまり、その後の労災の給付自体が受けられなくなってしまいます。

障害が残った場合には、労災から障害年金が支給されますが、年金給付も3年間は支給されなくなります。

国が用意した「念書」

交通事故などで加害者がある場合に労災に請求すると、「第三者行為災害届」という書類を提出する必要があります。(制度についてのパンフレットはこちら)そのときいっしょに提出する必要があるのが「念書」です。

上で説明したようなことは、実はこの念書にも書いてあります。

1 上記災害に関して、労災保険給付を請求するに当たり以下の事項を尊守することを誓約します。
(1) 相手方と示談を行おうとする場合は必ず前もって貴職に連絡します。
(2) 相手方に白紙委任状を渡しません。
(3) 相手方から金品を受けたときは、受領の年月日、内容、金額(評価額)を漏れなく、かつ遅滞なく貴職に連絡します。

2 上記災害に関して、私が相手方と行った示談の内容によっては、労災保険給付を受けられない場合があることについては承知しました。

3 上記災害に関して、私が労災保険給付を受けた場合には、私の有する損害賠償請求権及び保険会社等(相手方もしくは私が損害賠償請求できる者が加入する自動車保険・自賠責保険会社(共済)等をいう。以下同じ。)に対する被害者請求権を、政府が労災保険給付の価額の限度で取得し、損害賠償金を受領することについては承知しました。

もしものときは、なんだかよくわからないけど、監督署で出せと言われたから出した、とならないように、内容をしっかり確認しましょう。そして、念書に書いてある通り、示談をする前に労働基準監督署に相談しなければなりません。

示談のタイミングと文言

示談をするタイミングについても、損害額が確定してから、つまり、ケガの治療がいったん終わり、症状が固定してから示談するようにしたほうがよいでしょう。

また、示談の時には、次のような文言にしておくと安心です。

乙(被害者、つまりあなた)は、労災の給付を受ける分についての損害賠償請求権を放棄するものではなく、請求権が国に移転した分については、国と甲(加害者)との間で解決すること。

(参考 『自賠法と第三者行為災害の調整実務』村元雄二 日本法令)
 

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