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労働時間については、会社側が把握することとして、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置」が設けられています。

ところが、未払い残業や過労死などの裁判においては、会社側が把握している労働時間以上の時間が、労働者側の主張によって認められることがあります。

労働時間について、裁判所がどのように判断したかを具体的にみてみましょう。

パソコンのログ-マツダ事件(神戸地裁 姫路支部 平成23年2月28日)

事件の内容

大手自動車会社の部品購買担当者が、入社3年目にうつ病にかかって自殺したのは、会社の過重業務によるものだとして遺族が訴えた。

勤怠管理の方法

  • 従業員が各自のパソコンから、サーバー上に保管されている「出勤簿」にアクセスし、自ら始業・終業時刻を打ち込んで記入。
  • 残業を行う際には、事前ないし事後に上司に対し電子メールで申請を行って許可を受け、自己申告によりサーバー上の「出勤簿」に終業時刻を打ち込んでいた。

認定された労働時間

  • 使用していたパソコンのログ記録に基づいて、電源が入れられた時刻、及び、切られた時刻をそれぞれ始業時刻及び終業時刻と考える。
  • ログ記録が残っていない場合には、最終の送信メール時刻ないし文書更新時刻を終業時刻とする。
  • それによっても明らかにできない日については、他の多くの日と同様に午前8時10分ころには始業し,午後9時30分ころまでは業務に従事していたと推定。
  • 午後5時45分から午後6時までの15分間は、就業規則上は休憩時間であるが、亡くなった従業員は当時多忙を極めていたことからすれば、社会常識からして休憩をとっていたとは考えられず、労働時間として認定。

参考になるポイント

タイムカードではありませんが、従業員自らが記録した時刻がサーバー上に残るというしくみで勤怠管理を行っていた会社です。

亡くなった従業員は事務職だったので、始業の打刻より前に仕事をはじめ、終業打刻後にも仕事をしていたことが、パソコンの記録にはっきり残っていました。

入社3年目という経験の浅い社員に重要な業務をまかせたにも関わらず、上司からのサポートがなかったという点も重要な論点になっています。

終業後の飲食しながらの会合も労働時間に-大阪中央労基署長(ノキアジャパン)事件(大阪地裁 平成23年10月26日)

事件の内容

50代の大阪事務所長がくも膜下出血で死亡したのは、過重業務が原因であるとして遺族が労災申請したが不支給となったため、審査請求・再審査請求を経て、不支給処分の取消を求めた事件。

勤怠管理の方法

勤務時間は自己申告とされていたが、死亡した社員は管理職であり、まとめて勤務時間管理表を提出していたので、正確には申告していなかった。

認定された労働時間

  • 始業は、部下の証言から午前9時頃であり、午後8時頃までは事務所で仕事をしていた。
  • 亡くなった社員の手帳やスケジュール帳の記載から、午後8時以前に、接待や懇親会等によって退勤したことが明らかな場合はその時間を終業時刻とする。
  • 勤務時間外に発信したメール・携帯メールについては、1通あたり10分を時間外労働として加算。
  • 原告は出張の移動中も、パソコンや携帯で仕事をしていたと主張しているが、これは証拠がないので認めない。
  • 顧客に対する接待は、会社が業務と認めて費用負担しているものであれば、労働時間として算入する。
  • 関係者等との時間外の飲食も、業務と関連が深いとして、労働時間と認める。

参考になるポイント

亡くなった労働者が管理職であったため、会社には証拠となるような具体的な労働時間の記録が残っていなかった事件です。

部下の証言だけでなく、経費の精算書、スケジュール帳、手帳、メール、さまざまな手段を用いて総合的に労働時間が認められています。

鍵の受け渡し表など-O社事件(神戸地裁 平成25年3月13日)

事件の内容

過労死事案で、構造的に賃金不払い残業が行われていたと労働者側が主張したもの。
会社側は「残業予算」を決め、残業抑制の指導を行っていた。

勤怠管理の方法

  • 従業員一人一人が持っているIDカードをカードリーダーに差し込むと、各店舗ごとの勤怠パソコンに入力され、個人別の就業月報や店全体の勤務状況表が作成される。
  • シフトの始業時刻前に出勤してタイムカードを打刻しても、その始業打刻時刻から所定始業時刻までの時間は残業時間にはカウントされていなかった(早出については、上長からの事前の指示がある場合、もしくは上長への相談承認のもとに実施される場合に限って、労働時間と認めるという取扱いをしていた。)
  • シフトの終業時刻後居残って仕事をした場合は、シフトの終業時刻から退勤の打刻時刻までの時間が残業時間として自動的にカウントされていた。

認定された労働時間

始業
  • シフトに関係なく、午前 8 時ころには出勤しており、遅くとも午前 9 時を過ぎることはなかった。
  • 実始業時刻は、出勤打刻の1時間前と考えられることから、出勤打刻時間と鍵受け渡し表記載時刻のどちらか早い方。
  • 出勤打刻が9時以降になっている日は、打刻時間の1時間前。
終業
  • 平成15年12月までは、退勤打刻後残業を出勤日の都度行っており、その実終業時刻は午後11時ころであった。
  • 平成16年1月以降は、会社のチェックが厳しくなり、退勤打刻後残業がしにくくなったが、バックヤードなどの見回りのない場所で、少なくとも午後10時30分までは退勤打刻後残業を行っていた。

参考になるポイント

IDカード(タイムカード)の打刻が行われており、鍵の受け渡し表以外に客観的証拠がなかったにも関わらず、タイムカードの打刻時間よりもかなり多くの時間外労働が認められた事件です。

会社側は、未払い残業をしないよう指導していましたが、指導だけでは会社の安全配慮義務を満たすことはできないとされました。

実際の業務量自体を、業務配分の見直し、人員補修などの具体的な形で軽減させることが必要だったわけです。

 

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