催眠商法と人材育成

催眠商法というものをごぞんじですか?

彼女が早速チラシに書いてある場所に行ってみると、すでに30名ほどの 人が集まっていました。そこでは司会者が、集まった人に化粧品の サンプルを配りながら「皆さん、今日はラッキーですね」とか 「ここに来た人はみんないい人」と言いながら手を挙げて「ハイ」と 声を出す練習をさせていました。
(中略)
司会者が手にした品物を「通常千円のところ今日はなんと百円、欲しい人」と大声で言い、練習したとおりみんなが大きな声で「ハイ」と返事をしていきます。中でも元気の良かった奥さんに「気に入ったのでタダであげよう!」と言ってあげたりしていました。
これを何回か繰り返すうち、会場全体が、早い者勝ちで、この場で買わないと損をするような雰囲気になっていきました。

(警視庁 催眠商法の手口)

何度も繰り返し「ハイ」と言わされると、「イイエ」と答えるのが難しくなってしまいます。そのうえ、サクラを使って集団心理に巻き込む、人間の心理のクセをついた悪徳商法です。

そう、人間は同じ行動を繰り返すと、次も同じようにしたくなります。

そのような心理学的な傾向がわかっているのですから、悪徳業者だけに独占させておく手はありません。

彼らは、心理学を応用して、人をコントロールし、不当な利益を上げますが、わたしたちは、心理学を応用して、人を育て、雰囲気のよい職場を作れるのです。

具体的にはどのようにするのでしょうか。

コツは、ハードルを思い切り下げて、必ずできることからやってもらうことです。

「お客様には、きちんと応対しなさい」

ではなく、

「お客様には元気よくあいさつをしましょう」
「『はい』『かしこまりました』が言えるようにしましょう」

このような基本からはじまって、身だしなみ、表情、声の出し方など、注意する点は多いのですが、ひとつひとつできるようになってから、次を積み重ねていきます。

できるようになったら、必ず「できたね」と認めることを忘れずに。

「指示をされる」
  ↓
「ひとつできた」
  ↓
「できたね、と認められた」

この繰り返しから、「指示されたら、そのとおり行動する」というクセが生まれます。

催眠商法で行われる「手を上げて『ハイ』と声を出させる練習」は、そんなこと練習しなくてもだれでもできるわけですから、一見ばかばかしく思えます。

しかし、「指示をする」「その通り行動する」というクセをつけるという点で、驚くような効果を発揮し、最終的には数十万円の羽毛布団を買わせてしまうのです。

「指示をする」「その通り行動する」それを繰り返す。このクセは、ビジネスマナーの習得にも使えますし、ひとりの人間を育てることにも使えます。

「おいおい、そんなに指示されるクセをつけていたら、『指示待ち人間』に なってしまうんじゃないの?」
「自分の頭で考えるクセをつけないと」

こう思ったあなたは、鋭いです。

わたしたちは、指示通りにする人形や兵隊がほしいのではありません。
いっしょに働く頼りになる職場の仲間がほしいんですよね。

でも、催眠商法のやり方を思い出して下さい。
最初は思い切りハードルを低く、少しずつハードルを上げていくと、最後には驚くようなことができてしまうんですよね。

ハードルを上げた指示の中には「自分で工夫する」「アイデアを出す」「どちらがよいか判断する」ということも含まれてきます。

育てる側が、最終目的をしっかり頭に描き、相手にもそれを共有することで、ひとつひとつの小さな指示が、最終的な場所に導いてくれるのです。