社長がセクハラ・パワハラをしているときの3つの対策

研修やセミナーで、人事労務担当者からよく出てくる質問はこれです。

ハラスメント防止のための対策をしようとしても、社長が消極的なので、なかなかすすまない。どうしたらよいか。

中小企業のオーナー経営者の場合、ワンマンで人の話を聞かないタイプもよく見受けられます。そういうタイプの社長は、セクハラ・パワハラの訴えについても「従業員のわがまま」と感じ、防止対策をすることになんとなく反感を抱いていたりします。

これ自体も困ったことですが、実は、この質問の背後には、社長自身がセクハラ・パワハラをしているという状況も含まれています。ほかの人に聞かれない場所では「うちの社長は・・・」ということでお話いただくこともよくあります。

しかし社長にうっかりしたことを言おうものなら、自分のクビが危ない。でも、社長がそのような態度だから、社内でもセクハラ・パワハラが蔓延していて、従業員が定着しない。人事労務担当としては、ほんとうにつらいところです。

では、どうしたらよいのでしょうか。3段階で考えてみましょう。

対策1 管理職向けのハラスメント防止研修に社長も参加してもらう

ハラスメント防止研修だけは、たとえ社長がいやな顔をしても実行していただく必要があります。

当事務所では、管理職研修に社長以下役員の方もご参加いただくことをおすすめしています。「社長が来るか来ないかで、研修の効果が違いますよ」と申し上げています。会社の本気度が社員に伝わるからです。

いちばんまずいのは、最初にあいさつだけして、自分は研修を受けずに退席してしまうことですね。お忙しいとは思いますが、「社長はハラスメント防止について他人事だと思っている」というメッセージになってしまいます。

ともあれ、社長を研修に参加させることに成功したら、当日は講師におまかせです。

うちあわせの段階で、「やたらと怒鳴る」「社員を無能扱いする」等、社長がふだんやっていることを具体的にお知らせいただくと、一般論としてそういう行為がいかに経営にマイナスか、お伝えすることができます。

また、ハラスメント対策が、今後は採用や人材定着、そして「炎上」しないためのリスク管理にいかに重要か、経営者の視点でお伝えします。

自分で猫の首に鈴をつけなくても、外部の専門家にまかせることができるのです。

対策2 トップのハラスメント事案の実例を知らせる

対策1で社長がまったく反応を示さなかったり、かえって「あんなことをいちいち考えていたら、話もできないよ」「めんどうな時代になった」等というようであれば、ここはとばして対策3にいったほうがよいでしょう。

たとえ自分自身のこととは思わなくても、社長がハラスメント防止に一定の理解を示すようになったら、やはりご本人の問題に目を向けてもらう必要があります。

幸か不幸か、社長のハラスメント行為が問題になる企業・団体は後をたちません。するとどうなるか、実例がたくさんありますので、レポートを作って見てもらい、社長と話し合う必要があります。

  • 株価の下落
  • 社長本人の解任・辞任
  • 「炎上」による外部への信頼失墜

この3つがよく出てきますね。

もちろん、そのときに「ハラスメント防止対策の会議をする」ということで、外部の専門家に参席してもらい、レポートしてもらうことも効果的です。自分が矢面に立つ必要はありません。

対策3 転職する

さて、対策1、2でも効果がなかった場合。もしくは、対策1、2を実行できなかった場合は、やはり最終手段になります。

ハラスメントの専門家として多くの行為者(加害者)に接していると、自分の加害行為に気づいて、自分自身変わろうとする人がいないわけではありません。でもやはり少数ですね。長年にわたって身につけた考え方を変えるのは、かなり難しいです。

ふつうの社員なら、「ハラスメント行為をしてはいけないことに気づき、今後はしなくなる」のであれば、一件落着です。それ以上は追求しませんし、内心に関わることなので、できません。

しかし、ハラスメント加害者が、企業トップとなるとどうでしょうか。

  • 人権意識がない
  • 社員を自分の道具だと思っている
  • なんでも自分の都合のいいように考える
  • 自分は悪くなくて、悪いのはすべて周りの人間、または環境

こういう人が、これからの社会で経営者として成功し続けるとはとても思えません。

社長がセクハラ・パワハラをしていると、社内はだんだんこうなっていきます。

  • 見切りをつけて辞める人が多く、いつも人手不足
  • 社員の中でもセクハラ・パワハラが横行しやすい
  • 新規の商品やサービスを開発をしようとする意欲のある社員が辞めてしまい、イエスマンしか残らない

こういう会社の未来は暗いでしょう。会社よりも自分自身の未来を考えなくてはなりません。

自分が被害を受けているのならもちろん、そうでなくても、泥舟からは早々に降りるのが得策だということです。