「厳しい指導」の効果とは?(1) の続きです。

「厳しい指導のつもりの不適切な指導」の結果、部下はどうなるか

(1)に書いたように、やっているほうは「厳しい指導」と思っているが、実は不適切な指導を続けていると、部下はどうなるでしょうか。

短期的には、上司に叱られるのが怖い、罰が怖いので、上司のいうことを聞くようになります。
また、部下の性格によっては、自分で考える必要がなく、上司の意向どおりに動けばよいので、要領がつかめてくると、けっこう楽だと思うかもしれません。

しかし、このように「恐怖や不安で支配する方法」は、長期的に見るとデメリットが大きいのです。

最大のデメリットは、上司と部下の間に溝ができてしまうことです。

「うちの部下たちは、まったく報連相してこない」と不満に思っている上司。あるあるですね。
でも問題は、「報連相してこない部下」ではなく、上司自身の態度、ということが多々あります。
上司の機嫌のよいときに報告しようと思っていて、つい報告しそびれる、または、上司がまともに話を聞かず、自分の意見を押し付けてくるだけだから言ってもムダ、と思われている、ということだったりします。
もっと単純に上司に好感や信頼感が持てないので、なるべく話をしたくない、という場合もあるでしょう。

ミスをした場合は、さらにそれが顕著になります。
報告するとどなられる、責任を追求される、しかし助けてはくれない、という状況では、部下は自分のミスを隠すようになります。
早い時期に報告してくれればいくらでも対処できるのに、隠している間に問題はどんどん拡大していきます。

また、上司が「自分の判断が絶対正しい」と思っていると、部下は自分で判断することを避けるようになり、自発的に仕事をすることはなくなります。
「いつまでも待ちの姿勢ばかりで、自主性がないんだよ」と思っている場合、上司は自分の指導のしかたを考えてみる必要があります。

機嫌のよい悪いで態度が変わる上司の下で仕事をしていると、本来の仕事にさしむけるべきエネルギーが、上司の機嫌をうかがい、上司を怒らせないようにすることに使われてしまいます。
最悪の場合、上司に叱られないことが仕事の目標になってしまい、本来なんのために仕事をしているのかわからないという、本末転倒なことになります。

当然ながらモチベーションは低下するし、ストレス過多で、体調を崩す部下も出てくるでしょう。

「厳しい指導のつもりの不適切な指導」がいまも幅を利かせている理由

このようにデメリットだらけの「厳しい指導のつもりの不適切な指導」が、いまだに幅を利かせているのはなぜでしょうか。

それは、上司からすると「楽な方法」だからです。

ワンパターンで部下に要求していればよく、部下の性格やキャリアによって指導の方法を変えたり、うまくいかない指導方法を工夫するという手間がありません。

さらに、部下が自分の機嫌をうかがうのに汲々としている状況を見ると、上司の権力欲が満足します。
じつに「ちっちゃい」話ですが、どんなにちっぽけでも権力というものには、そういう作用があるのです。

さらに、会社の上層部もこのような「厳しい指導」を是としており、指導方法についての研修もなくては、変わるわけがない、ということですね。

部下が自律的に仕事に取り組むようになるには

では、「厳しい指導のつもりの不適切な指導」以外に、部下を成長させるにはどうしたらいいのでしょうか。

次のような状態を作ると、うるさく言わなくても、部下は自律的に仕事に取り組み、成果をあげて、成長していきます。

  1. 不安・焦り・恐怖がない
  2. 上司・同僚と信頼関係があり、助け合える
  3. よい行動がよい結果につながるという体験がある
  4. うまくいかないことを相談すると、助けてもらえたり、いいやり方を教えてもらえる
  5. 失敗しても、自分ひとりの責任にされない
  6. 結果だけでなくプロセスも評価される
  7. 会社の理念に共感している
  8. 将来に希望がある

このような環境を作るために、(1)で見たような「厳しい指導」が逆効果だということがわかるでしょう。

自分は「厳しい指導」で成長した?

しかし、ここまで読んで、自分は「厳しい指導のつもりの不適切な指導」をする上司のもとで一人前になり、成長してきて今がある、と思う方もいるのではないでしょうか。
そのような方には、下のようなご説明はいかがでしょうか。

上司が前項の1から8までを頭において指導してくれていたら、たぶんあなたはもっと早く、いやな思いをせずに、成長していたでしょう。
いまよりも、もっと伸びていたかもしれませんね。

また、たまたまあなたは「不適切な指導」に耐性があり、ほかの部分ではよい環境があったから会社に残ることができ、昇進することができたかもしれません。
しかし、その影には耐えきれずに辞めていった人、心身の不調をきたした人がたくさんいるでしょう。
いわゆる「生存者バイアス」で、自分が耐え抜き、昇進できたから、理不尽な指導にも成果があった、と考えているだけかもしれません。

さらに、「厳しい指導をする上司のもとで成長した」と思うとき、その上司は、できれば口もききたくないようなイヤな人間だったでしょうか。
「言っていることは厳しいけど、人間としては信頼できる」と思っていたのではないでしょうか。
(1)に書いたような「厳しい指導=理不尽な指導」は、そのような人間としての信頼感を根こそぎ破壊してしまいます。
上司と部下の間に信頼関係がある場合は、例えば、ミスを厳しく追求されたとしても、「自分が悪いのだからしかたがない」と感じるでしょう。
そもそもの信頼という土台が必要なのです。

部下の自尊心や自発性を大切にし、部下の言い分をしっかり聞くことは、甘やかすこととは違います。
厳しい要求もときには必要ですが、「信頼」という土台作りを忘れないようにしてください。