当事務所は、多くの事業所様からハラスメント外部相談窓口の委託を受けています。ハラスメントを訴えてくる人に接する数は、かなり多いのではないかと思います。

最初の相談を受ける時点では、ほんとうにハラスメントかどうかはわからないのですが、相談する方がなんらかの苦痛を感じていることは間違いないので、その感情によりそって、できるだけ事実確認をします。

「扱いにくい部下」「できない部下」が対象になるパワハラ

実は、相談している方からの一方的な話を聞いただけでも、「この人の上司はたいへんだろうなぁ」と、まだ見ぬ行為者の心情を想像してしまうことも、けっこうあります。

よくあるのは、思い込みが強く、自分が100% 正しいと思い、相手の事情は考えないタイプです。また、すでに行為者である上司に強く抗議していて、芳しい反応がないので次の手段として、外部相談窓口に相談してきた、という場合もあります。被害感情や主張が強いタイプですね。

そして、その次に行為者である上司にヒヤリングすると、相談者本人が言わなかった事情が出てきます。

いわく、上司からの指示に素直に従わない、やっておいてほしいと言ったことを無視していて、注意するとその場だけは「はい」というが改善されない、逆に注意するとくってかかってくる。言い訳ばかりで自分の非は認めない、社会人として当然知っているべきビジネスマナーが身についていない、等等・・・

もちろん実際には、被害者の性格がおとなしかったり、上下関係から言い返せないのをいいことに、上司が自分の感情のはけ口にしているタイプのパワハラのほうが多数かもしれません。そういう被害者は、どちらかというと外部相談窓口を利用するのではなく、そのまま泣き寝入りしてしまうか、別の形で発覚することが多いのではないでしょうか。

ともあれ、パワハラの中で一定数は、「かわいそうな被害者を鬼のような上司が責め立ててる」というイメージに合わない事案であるのは確かです。

上司にも強いストレスがかかっているが・・・

上司からすると、扱いづらく、能力にも問題がある部下に当たってしまい、がんばって注意しても改まらない、その人のために職場全体がいやな雰囲気になり業績もあがらない、悩んで夜も眠れなくなってしまう、というのが、ことのなりゆきです。

問題のある部下から受けるストレスで、自分の心身状態も悪くなってしまい、つい、声を荒げたり、暴言を吐いたり、必要以上に執拗に叱責してしまった。それをパワハラと言われたら、自分の立場はどうなる? 上司は、どんなにひどい部下でも、どこまでも我慢しなくてはいけないのだろうか? 自分こそ被害者ではないか! と感じたりします。

同情すべき点はもちろんありますが、残念ながらこのようなパワハラ行為者の主観は、客観的に見ると問題がいろいろあります。

「できない部下」は上司が作り出している

まず、パワハラ行為を行ってしまう上司の多くは、指導のしかた、叱責のしかたに工夫がありません。ただ「ちゃんとやれ」「がんばれ」と言うばかりで、「なぜできないのか」について相手から事情を聞いたり、つまづいている部分を明らかにするサポートしようとしません。

「できない相手が悪い」「こんな簡単なことができないのは、やる気がないからだ」「こんなに言っているのにできないのは、自分をバカにしているからだ」という思考から抜け出せないんですね。

また、うまくいかないのであれば、本人に指導するだけではなく、業務の分担を変えたり、業務上あまり効果がないと思われることは思い切って中止したりするようなことも考えられますが、そのような対策をとる柔軟性がありません。

このようにものの見方が硬直していて柔軟性がないと、感情的になりやすく、怒りが暴発してパワハラに至るということも言えます。

さらに、あの手この手で指導しても効果が出なければ、人事と相談して配置転換や、場合によっては退職勧奨を考えるという方法もありますが、他部署や自分の上司に働きかけるという行動もできません。

一言で言って、上司の指導力不足が「できない部下」を作り出している場合が多いのです。

「パワハラ上司」は会社が作り出している

ずいぶんと上司に厳しいようですが、上司と部下では持っている権力(パワー)に差があります。権力を持っている側が、より大きな責任を負うのは当然です。

さて、そうなると、上司よりもさらに大きなパワーを持っている存在、会社には責任はないのか、ということに思い至りますね。

このような場合、会社の責任もまた大きくなります。

現在管理職になっているのは、多くが40代以上ですが、この世代は、自分が若い時には上司からパワハラまがいの指導を受けてきた人がたくさんいます。社会全体の雰囲気として、現在とはまるで違い、上司からの暴力、暴言等が当たり前と受け止められていました。

そのような中で育成され、自分が上司から受けた指導方法しか知らない場合、部下が思うように動いてくれないと、自分が受けた指導と同じ方法、つまり、怒鳴る、脅す、相手の人格を否定するような暴言を発する、ということになりがちです。

指導方法についての認識をアップデートするには個人任せでは限度があります。会社が管理職研修やリーダー研修を設定し、しっかり学んでもらいましょう。

またもちろん、ハラスメント防止研修を定期的に行う等して、ハラスメント自体への知識をつけ、ハラスメントにならない指導ができるよう、コミュニケーションのやり方についても、学んでいく必要があります。

さらに、トップダウンでなくてはできないハラスメント防止法があります。それは、長時間労働を防止するということです。長時間労働とパワハラの発生は、リンクしています。

これらの対策をせず、社内の雰囲気がぎくしゃくしていても気づかなかったり、軽視している会社は、パワハラ上司を作っていると言ってもいいくらいです。

パワハラが発生すると、被害者が辛い目にあうだけではありません。パワハラをしている側も、それが問題となり、懲戒や配置転換・役職降格などの処分を受けると、本来その人が持っている能力が発揮できなくなりますし、会社に居づらくなってやめてしまうかもしれません。

会社の取組みが職場を変える

会社が腹をくくれば、できる対策はいろいろあります。ハラスメント防止策をあの手この手でやることが、社内のコミュニケーションをよくすることになり、業績アップにもつながります。

あなたの会社は、無為無策でパワハラ上司を「育成」していますか? それとも、コミュニケーションを重視し、部下の人格を尊重する上司を育成していますか? パワハラは個人の問題ではなく、そこにこそほんとうの原因があるのです。