パワハラが起こる素地として、上司と部下の認識に大きなギャップがある、ということがあります。
部下の側はそのギャップに気づいていますが、上司はまったく気づかず、相手も自分と同じ認識だと思い込んで、悪気なく、自分の認識を部下に押し付けてしまいます。
「個の侵害」型のパワハラにありがちな状況です。
指導する際に厳しく言い過ぎた、ということであれば、上司の側にもある程度自覚があるものですが、このようなパターンでは上司は相手の不快な感情に気づいていません。
指摘すると「え? そこですか?」と驚いたりします。
パワハラとまではいかなくても、上司が自分の考えを不用意に押し付けることが続くと、部下は上司のことを「頭が固い」「言ってもムダ」と思い、信頼関係がなくなっていきます。
そうならないためには、どうしたらよいのでしょうか。
3つのポイントを見てみましょう。
1.「ふつう」「当然」という言葉が思い浮かんだら、いったん立ち止まる
部下に指示したり説明するとき、「これがふつうだから」「当然こうしないと」等の言葉が頭に浮かんだら、ちょっとストップしましょう。
「ふつう」「当然」という言葉は、根拠のない思い込みに張り付いていることが多いのです。
その「ふつう」は、相手も「ふつう」だと思っているでしょうか。
上司の世代では、「ふつう」のことでも、部下の世代では「ふつう」ではないのかもしれません。
いったんこのように考えて、「ふつう」「当然」という言葉で、指示したり説明することはやめましょう。
2.根拠が説明できるのであれば説明し、話し合う
「ふつう」「当然」と思っていることは、もちろんすべて思い込みではありません。
きちんと根拠を説明できることもあるでしょう。
そのようなときは、部下に根拠を説明しましょう。
根拠といっても、「以前からずっとこのようにやっているから」というのでは、あまり説得力がありませんね。
「ふつう」「当然」を別の言葉で言い換えただけです。
自分では正しい根拠だと思っても、部下からすると、納得できないこともあるでしょう。
部下と議論することを恐れず、自分が説明したら、今度は相手の意見を聴きましょう。
このような話し合いが部下との信頼関係を作るのです。
3.根拠が思い当たらなかったら、部下に訊ねてみる
自分でも、はっきりした根拠が思い浮かばないときは、自説は潔く捨てるべきでしょうか。
そんなことはありません。
自分が「ふつう」と思い、部下もその方法や考えに抵抗がなければ、それでOKです。
ギャップがあるかどうかは、目の前に当の相手がいるのですから、聞いてみればよいのです。
「わたしはこうするのが当然だと思うんだけど、君はどう思う?」と。
そんなことを訊ねても、正直に答えてくれるだろうか、異論があっても、上司に逆らいたくないから、またはめんどくさいから、「それでいいですよ」と言うのではないか、と思うかもしれません。
しかし、そうやって質問することで、「上司は自分の意見を聞く気があるし、自分の意見を尊重している」ということは、必ず相手に伝わります。
職場のコミュニケーションは日々の行動の積み重ねです。
上のようなことを意識してみても、すぐには変化がないかもしれません。
しかし、ある程度時間がかかるものだということを頭において、粘り強く行動していけば、「パワハラ上司」というレッテルが貼られることはないでしょう。