2024年11月1日、フリーランス・事業者間取引適正化等法(いわゆるフリーランス新法)が施行され、フリーランスへの業務委託を行う企業(特定業務委託事業者)には、ハラスメント対策のための体制整備が義務付けられました。
本記事では、実務担当者の方々に向けて、具体的な対応方法をご説明します。
ハラスメント対策が必要となる対象者
まず、法律の対象となるフリーランス(特定受託事業者)とは、従業員を使用しない個人事業主、または代表者のみで従業員のいない法人を指します。
これらの方々と業務委託契約を結ぶ企業は、従業員のいる個人事業主または複数の役員がいるもしくは従業員のいる法人が該当します。
具体的な例を挙げると、以下のような方々が対象のフリーランスとなります。
- 一人で活動するウェブデザイナーやシステムエンジニア
- 従業員を持たない個人の建設作業従事者
- 一人で業務を行う通訳・翻訳者
- 代表者一人だけの法人として活動するコンサルタント
- 個人で活動するイラストレーターやライター
一方で、以下のような場合は対象外となります。
- 従業員[1]①1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ、②継続して31日以上雇用されることが見込まれる労働者を1名でも雇用している個人事業主
- 代表者以外の役員がいる法人
- 複数の従業員を抱える士業事務所
実際に起こりやすいハラスメントの例
ここでは、フリーランスが被害を受けやすいハラスメントの例をあげます。
もちろん、ハラスメントはこれだけではなく、通常「職場のハラスメント」として考えられている、セクハラ、マタハラ、パワハラはフリーランスが被害者の場合も該当します。
また、ハラスメントであると同時に、フリーランス新法の他の規定に抵触するものもあります。
契約更新を利用した優越的地位の乱用
フリーランスの立場の不安定さにつけ込み、契約更新を条件に本来の契約範囲を超えた要求をすることは、典型的なハラスメントとなります。
「今回の契約を更新したければ、休日でも必ず対応するように」といった発言は、ハラスメントに該当します。
不当な報酬の値下げ圧力
「まだ他のフリーランスはいくらでもいるんだから」「業界の相場はこんなものじゃない」といった言い方で報酬の値下げを迫ることは、優越的地位の濫用となります。
適正な報酬についての協議は必要ですが、威圧的な態度での交渉は避けるべきです。
契約外業務の強要
業務委託契約で定められた範囲を超えて、「関係者なんだから当然」という理由で追加業務を要求することは不適切です。
特に、報酬の支払いなく打ち合わせへの参加を必須とするような行為は、ハラスメントとなる可能性が高いです。
不当なプライバシー介入
フリーランスの方々の他社との取引関係や個人的な予定について、過度に干渉することは避けるべきです。
「なぜ他社の仕事を受けているんだ」「個人の事情は関係ない」といった発言は、個人の職業選択の自由を侵害するハラスメントとなります。
属性による差別的言動
性別や年齢を理由に、「女性のフリーランスは長期的な約束が難しい」「年齢的にもうITは難しいんじゃないの」といった先入観に基づく判断や発言をすることは、ハラスメントとなります。
社内の連携体制づくり
これまでフリーランスへの業務発注は、各事業部門が独自に行うことが一般的でした。
しかし、ハラスメント対策については、従業員に対する労務管理と共通する部分が多くあります。
そのため、フリーランス対応の実務担当者は、人事部門や労務担当者と積極的に連携することをお勧めします。
例えば、就業規則におけるハラスメント防止規定や相談対応の手順は、フリーランス向けの対応にも応用できます。
また、ハラスメント相談への対応ノウハウや、事実確認の方法、解決に向けたアプローチなど、労務担当者の経験は大変参考になるはずです。
新たな体制整備を一から始めるのではなく、既存の仕組みを活用しながら効率的に整備を進めることが可能です。
次項の具体的な体制整備の方法は、すでに厚労省から発出されている、セクハラ・パワハラ・マタハラのガイドラインとほぼ重なっており、労務管理担当者は理解しているはずですので、相談しながら進めましょう。
具体的な体制整備の進め方
体制整備は大きく4つのステップで進めていきます。
第一に、ハラスメントに関する方針を明確にし、社内に周知する必要があります。
契約書や社内規定にハラスメント禁止を明記し、違反した場合の処分についてもわかるようにしておくとよいでしょう。
第二に、相談窓口を設置します。
多くの企業では、既存の従業員向けハラスメント相談窓口をフリーランス向けに拡充する方法が効率的でしょう。
相談対応の経験がある担当者が対応することで、適切な対応が期待できます。
新規に専用窓口を設置する場合でも、従業員向け窓口との連携体制を整えることが重要です。
相談窓口の連絡先は契約書やメールに明記するなど、フリーランスの方々が確実に認識できる方法で周知します。
オンラインでの相談受付も可能ですが、その場合は相談が確実に受理されたことが分かる仕組みを整える必要があります。
第三に、ハラスメントが発生した際の対応手順を確立します。
事実関係の確認を迅速に行い、被害者への配慮と行為者への処分を適切に実施します。また、類似事案の再発防止策も講じます。
第四に、相談者のプライバシー保護と不利益取扱いの禁止を徹底します。
相談したことを理由に契約解除や報酬減額などの不利益な取扱いをしないことを明確にし、フリーランスの方々に周知します。
妊娠・出産に関する特別な配慮
特に注意が必要なのは、妊娠・出産に関するハラスメントです。
フリーランスの方から妊娠・出産に関する配慮の申出があった場合、その申出を取り下げるよう求めることはハラスメントに該当します。
ただし、配慮により実際に業務量が減少した場合、その分の報酬調整について話し合うことは認められています。
重要なのは、配慮を受けることのみを理由とした報酬減額は認められないということです。
他社の現場で働くフリーランスへの対応
フリーランスの方が他社の現場で働く場合、元請企業と連携したハラスメント対策が効果的です。
例えば、映画制作現場や建設現場などでは、現場全体でのハラスメント防止研修の実施を要請したり、システムエンジニアが客先常駐する場合は、現場管理者と連携した相談対応の手順を契約に盛り込んだりするといった工夫が考えられます。
多くの企業にとって、フリーランスへのハラスメント対策は新しい取り組みとなります。
しかし、これは単なる法令遵守以上に、優秀なフリーランス人材との良好な関係を構築し、ビジネスの発展につながる重要な取り組みと捉えることができます。
人事部門や労務担当者のノウハウを活用しながら、実効性のある体制づくりを進め、フリーランスの方々が安心して能力を発揮できる環境を整えていきましょう。
参考:フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ |厚生労働省
Footnotes
↑1 | ①1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ、②継続して31日以上雇用されることが見込まれる労働者 |
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