個人で仕事を請け負い、建設現場で働くいわゆる「1人親方」などの事故死について、厚生労働省が初めて調査した結果、去年12月までの半年間に、全国で48人が死亡していたことが分かりました。「1人親方」は、経営者とみなされ、これまで労災事故の統計に含まれてこなかったということで、厚生労働省は、今後継続的に調査を行い、元請け業者への安全対策の指導を強化する方針です。
労災事故は全体に減少傾向の中、半年で48人の死亡事故というのは、「えっ」と思うような数で、いままで統計に入っていなかったということも驚きでした。
「一人親方」という言葉は、もともと労災の用語なので、建設関係者やわたしのような労務管理に携わっている人以外にはなじみのない言葉でしょう。それなのに、このニュースがかなり注目されているということにも、また驚きました。(細かいことですが、記事には「1人親方」とありますが、これはへんですね。正しくは「一人親方」)
「一人親方」というのは、どういう人のことを指すかというと、「労働者を使用しないで次の①~⑦の事業を行うことを常態とする一人親方その他の自営業者およびその事業に従事する人」(特別加入制度のしおり(PDF))
①から⑦というのは、大工、左官、とび職など土木・建設に携わる人だけでなく、個人タクシー業者や個人貨物運送業者や、林業、水産業、医薬品の配置販売、廃棄物の収集・運搬などの仕事のうち、一定のものが入ります。
建設現場では、会社に雇われている労働者と、一人親方がいっしょに働いており、区別がつけづらいかと思いますが、労働者は労働(雇用)契約、一人親方は請負契約です。
労働契約とは、基本的に時間で区切って労働を提供するものですが、請負契約というのは、仕事の完成を目的とする契約です。ですから、どれだけ時間がかかるか、何人でやるか、ということは発注側が関知するところではなく、発注者の指揮命令も受けません。
たとえば、家庭で作り付けの書棚を大工さんに発注するような場合、「大工さんを雇った」とは言わず、「書棚を作る仕事を頼んだ」といいますよね。何人で作業するかは大工さんの側が判断しますし、「1日で作りますよ」といったのが2日かかってしまっても、余分に労賃を出すことはありません。仮に仕事の途中で大工さんがケガをしたとしても、発注者は責任を負いません。これが、請負契約です。
労働契約というのは、雇用され賃金をもらう約束をすれば、自動的に発生するものです。たとえ口約束だけで契約書などがなくても、雇われれば雇い主との間に労働契約が結ばれたことになります。そして、賃金を受け取るかわりに、雇い主の指揮命令を受けて働く、これが労働者です。
労働者は、労働基準法など労働法制によって保護されています。労災補償も、もともと労働基準法が根拠になっています。
ですが、請負で働く場合は、個人事業主ですから、そのような保護の対象になりません。一人親方の場合、もし、仕事中に事故がおこって、大ケガをしたり亡くなったりしても、特別加入していない限り、労災保険からの補償はありません。
請負と雇用の違いは、最初に述べたように区別がつけづらいところが多く、労働者であるかどうかで、法律による保護が大きく違ってくるので、いままでたくさんの判例が積み重ねられています。
たとえ形式上は請負契約を結んでいても、実態は発注者に労働時間を管理され、指揮命令を受けていれば、労働者として扱われる場合もあります。
最近では、ワタミがアルバイト店員を「個人事業主で請負契約だ」と主張した例もあり、事業主の側が労働法制の抜け道として、請負契約を結ぶということも多々見られます。
そういう働き方は、フリーランスとして弱い立場であり、さらに労働者としての保護もはずされる、という二重に弱い立場になってしまうわけです。
労働者であれば労働法の保護下におかれ、そうでない場合は事業を営む上でとるべきリスクだから保護しない、という労働法制の考え方は、「個人で働く」ということの実態とは合わなくなっているのかもしれません。