前回は、障害厚生年金の受給の可能性を考えて、退職前から行動して下さい、という内容でした。

メンタル不調で退職する前に必ずしておくべきこと(1)ー障害厚生年金編 | 実務 | メンタルサポートろうむ

今回は、その前段階のお話です。
退職後もメンタル不調の症状が続き、しばらく休む必要がある場合、やはり事前の準備があるかないかで、経済的に大きな差がついてしまいます。

差がつく理由は、退職後も傷病手当金を受給できるかどうか、ということです。

まず、傷病手当金とは、病気やケガで4日以上仕事を休む場合、4日めから、標準報酬月額(≒給与額)の2/3が支給される、健康保険の制度です。
そして、その支給は、退職したらそこで終わりではなく、同じ病気で休まなければならない状態が続いてれば、1年6ヶ月の間、続きます。
退職後の大きな支えになることがおわかりですね。

ただ、この制度に関する知識が足りないと、もらえるものがもらえなくなってしまうかもしれません。
退職前からメンタル不調で休まざるを得ないような症状があり、退職後も症状が続いている場合、確実に傷病手当金を受給するための注意点をご説明します。

入社してから(健康保険に加入してから)1年以上たっているか確認する

退職後、傷病手当金を受給するためには、条件がふたつあります。

  1. 退職日までに被保険者期間が継続して1年以上あること(ただし、任意継続、共済組合、国民健康保険の加入期間を除く)
  2. 退職日当日において、傷病手当金の支給を受けている、または、受けられる状態であり、引き続き継続して、同一の病気やケガ(関連するものを含む)で労務不能であること

まず、ひとつめの条件について考えてみましょう。

入社してから数か月で、1年という期間にまったく足りない場合は、残念ながらここでアウトです。
そして、入社してすぐに社会保険に加入していない場合は、いつから加入していたのか確認する必要があります。
問題は会社の在籍期間ではなく、その会社で加入している健康保険の被保険者としての期間が1年以上あるかどうかです。

もし、現在被保険者期間が10ヶ月めや11ヶ月めであれば、就業規則を確認しましょう。
多くの会社では休職制度があり、体調が悪くて働けなくなった場合、すぐに退職する必要はなく、数か月から1年程度の猶予があります。
休職制度が使えるようであれば、必ず利用し、健康保険の被保険者期間が1年以上になるようにして下さい。

退職前に受診し、診断書をもらって続けて4日以上休む

そして、ふたつめの条件は、退職日当日において、傷病手当金の支給を受けている、または、受けられる状態であることでしたね。
退職前に必ず医療機関にかかり、4日以上休みがとれるような診断書をもらって下さい。
そして、実際に休み、最初の3日は有給を使って構いませんが、4日目以降から欠勤(無給)にすることにより、傷病手当金を受けられる条件が整います。

なお、この診断書は会社を休むためのもので、傷病手当金を申請するための用紙は別にありますので、後日、その用紙を持って医療機関に行き、証明を受ける必要があります。

やはり初診日が重要

在職中から、症状がかなりひどく、4日以上休んでいたが、ただ家で寝ていただけで、医療機関を受診せず、そのまま退職してしまった。
メンタル不調で退職する場合にはありがちですね。
このような場合はどうなるでしょうか。

医師は自分が診察する前のことはわかりませんので、その病気の初診日以前については、休む必要があったという証明はしてくれません
自宅療養をしていた期間も、休む必要がある状態だったと申し立てる方法はあるにはありますが、認められるのはかなり厳しいと思って下さい。
ですから、必ず在職中に医師が休む必要があると認めた状態で、4日以上休んで下さい。

退職日当日に出勤してはいけない

通常、傷病手当金は、ひとつの病気やケガの症状が続いている間は、いったん調子がよくなって出社した後、また病状が悪くなり休んだ場合も、休んだところから支給が再開されます。
しかし、退職後の支給については、退職日当日というのが、重要な意味を持っています。

引き継ぎなどのために、退職当日に出勤して出勤簿に記録され、給与が出ていると、退職後の支給のふたつめの条件が満たせなくなってしまいます。
つまり、退職した時点で支給は終わり、その後は出ません。
退職日には必ず休む、ということを忘れないで下さい。

退職後も最低1ヶ月に1回以上は受診する

さらにふたつめの条件には、「引き続き継続して、同一の病気やケガ(関連するものを含む)で労務不能である」とあります。

在職中の支給とは違い、いったん調子がよくなって働ける状態になり、その後また症状が重くなっても、傷病手当金は再開されることなく、そこで終わりです。

受診する間隔があまりに空いてしまうと、医師は自分が診ていない間、ほんとうにこの人は働けない状態だったのだろうか、と確信が持てず、証明してくれないことがあります。
そのようなことを防ぐために、症状がある間は、受診するのがたいへんでも、必ず定期的に診てもらうようにして下さい。

社労士としてのいままでの経験では、1ヶ月以上間があくと、証明してくれない場合が多いので、要注意です。