ハラスメント防止研修で、はじめての事業所様に伺うと、必ずお尋ねすることがあります。
それは、「ハラスメント相談窓口はどのような体制になっていますか?」ということです。
よくあるのは、次のようなお答です。
「総務部長(課長)と、女性の部下の二人体制です」
この場合、総務部長さんまたは課長さんは男性ですね。
次に多いのが「総務部長(課長)です」というお答え。
ほかには、「コンプライアンス担当の取締役」という答えもあります。いずれも役職で決めていることがわかります。
このような役職にある方たちが、ハラスメントの相談を受けると、まず思うことはなんでしょうか。
「ああー、めんどうな相談が来た。仕事が増えてしまう」
実際、ハラスメントの相談が来ると、会社の担当部署では、調査や処分の判断のために、かなりの時間がとられます。
自分の仕事として、対処しなくてはいけない立場ですから、顔に出さなくても、内心こう思ってしまうことは避けられません。
問題は、それをうまく顔に出さず、すぐに切り替えて、相談しに来た人を拒絶したり非難することなく、しっかり話を聞けるかどうかです。
相談窓口担当者を決めるとき、そのような資質を考慮しているでしょうか。
ハラスメントのご相談を受けたり、報道を見ると「どうしてそこまでひどい目に合っているのに、長期間だれにも相談しなかったのだろう」と思うときがあります。
でもこれは、被害を受けた方の気持ちにまったく寄り添っていない、無責任な考え方です。
ハラスメントの被害を申告するということは、自分より会社で立場が上の人、権力のある人に対して「たてつく」という行動なのです。
自分の会社での立場を考えたとき、
「ちょっとくらいならがまんしたほうがいいのではないか」
「もし、被害を申し立てたら、仕返しされるのではないか」
「会社にいられなくなるのではないか」
ということから、相談や申告をためらってしまうことは多いものです。
また、言葉の暴力などにより、自分の人間性を否定され続けていると、怒り、悲しみを感じるよりも、無気力になってしまったり、抑うつ状態になってしまったりして、被害を回復するための行動を起こせなくなるということも、珍しくありません。
さらに、会社の相談窓口に相談したくても、
「しょせん、会社の手先なのだから、自分の味方になってくれないのではないか」
という気持ちから、相談しないということもよくあります。
ですから、ハラスメント相談窓口の担当者が、相談を受けた場合、最初に必ず言わなくてはならないことは、このようなことです。
「言いにくいことなのに、よく相談してくれました。ありがとう」
「相談してくれたことによって、あなたの立場が悪くならないよう、会社として責任をもってあなたを守ります」
「いままでつらかったでしょう」
ハラスメントなんておおげさだ、この人の思いすごしじゃないか、この人が被害を受けたと言っている◯◯さんは、そんな人じゃない。
そんな気持ちが起こることもあるでしょう。
でも、ほんとうに思い過ごしかどうかの調査は、まずよく話を聞いた後です。
会社に相談に来る時点で、その人がつらい思いを抱えていることは間違いないのです。
そして、相談しにきた人が、安心して話を聞かせてくれるかどうかは、相談を受けた人の最初の対応にかかっています。
「自分は中立の立場だ」と思っているかもしれませんが、相談に来た人の立場に立つ、という考え方でないと、相手からは「会社の立場で考えている」と見えてしまいます。
その上、「これからあれをしてこれをして・・・あー、そうでなくても忙しいのに」と内心で思っていると、どうしても顔に出てしまったり、「その程度のことで相談に来るなんて」という対応になりがちです。
そんな対応をしてしまうと、相談に来た人は傷つき、会社への信頼感をなくしてしまいます。問題が大きくなり、こじれる可能性が高くなります。
会社で相談担当者を決めるときは、その人が相談した人の立場に立って話を聞けるかどうか、というポイントを忘れないようにしましょう。