従業員から新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金の会社証明を求められたら

コロナ禍で従業員を休業させたときに使える助成金

飲食業・観光業を中心に、コロナ禍で経営が成り立たなくなっている事業所が多くあります。お店を開けていてもだれも来ないので、従業員も休業させています。

「使用者の責めに帰すべき事由」、つまり会社都合で労働者を休業させた場合、会社は従業員に給与の6割を「休業手当」として支払う義務があります。[1]「労働基準法第26条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は休業期間中当該労働者に、その平均賃金の 100 分の 60 … Continue reading

コロナが理由であれば、雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)で、最大15,000円、休業手当の満額が出るので、こちらを利用する会社が多いのですが、これだと、まず従業員に給与(休業手当)を支払い、助成金が出るのはそのあとになります。

手元の現金がない等の理由で、労働者に休業手当が払えない(払わない?)会社は助成金の対象になりません。

こんなときのために、労働者に直接支給する新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金(以下 休業支援金)も創設されています。これは、完全に休業した場合だけでなく、時短で勤務時間が短くなったり、シフトが減少した場合にも使え、休業前の給与の8割(大企業にお勤めの方で、令和2年4月1日~6月30日の休業の場合は、60%)、1日あたり11,000円までが支給されます。

また、最初は中小企業だけが対象でしたが、大企業でシフト制、日々雇用、登録型派遣で働いている人も対象になることになりました。

なぜ休業支援金の支給申請は低調なのか

これで救われる人も多いはずです。ところが、この休業支援金の支給は低調で、本来対象になるべき人の多数が支給申請していない状況なのです。

その理由のひとつとして、申請するときに、会社に協力してもらう必要がある、という点があります。

最初に書いたように、休業手当の支払は労働基準法で義務付けられています。休業支援金を申請するということは、会社からすると法律上の義務を果たしていない、違法な対応をしているということになります。

つまり、休業支援金の申請等したら、法律違反が労働局にばれちゃう! という心配があるんですね。会社に申請書類の記入を頼んでも、拒否されてしまう理由の多くはこれではないでしょうか。

労働者が休業支援金を受け取っても、会社の休業手当の支払い義務は免除されるわけではなく、違法状態は違法状態のままです。しかし、この支援金の申請で違法状態がわかっても、監督署がやってきて調査したり、是正報告を出すことになるというのは、ちょっと考えられません。[2]支給申請の内容を確認するための調査はありえます。

そんなことをしたら、今後このような労働者への支援金を作っても、利用される見込みはまずなくなります。労働局は、基準法違反の摘発よりも、労働者の経済的苦境を救う方をとるでしょう。

休業支援金は、会社が協力しなくても申請できる

バイトやパートの従業員が、休業支援金の書類を持ってきて「会社の証明をしてください」と言ってきたときに「だめだめ! うちはそういうのやらないから」と言って、証明を拒んだらどうなるでしょうか。

休業支援金は、会社の証明がなくても、労働者が書くだけでも支給申請することができます。[3]ただし、労働局が会社に報告を求めるので、支給時期が遅くなります。

「Q&A」を見ると、このように出ています。

2 事業主が支給要件確認書への記載に協力してくれない場合、個人からのみの申請は可能でしょうか。
→ 仮に労働者が事業主に申し出たにもかかわらず、事業主が支給要件確認書への記載を拒むようなケースが生じた場合は、支給要件確認書の「事業主記入欄」の「事業主名」の部分に、事業主の協力が得られない旨を、事業主の主張その他関連する事情とともに記載の上、申請してください。その場合、労働局から事業主に対して報告を求めます。
この場合は、事業主から回答があるまでは審査ができないこととなり、その分申請から支給までに時間を要しますので予めご承知おきください。

新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金 Q&A

要するに、労働者が申請すれば、休業手当を支払っていない違法状態であることは、どのみち労働局にバレるのです。しかも、申請書類に記入するよりも、「報告」のほうが手間がかかるかもしれません。

コロナ禍が収束したあとの採用はどうするのか

仕事が減ってしまい経済的に困窮しているのに、休業支援金の申請に会社が協力してくれなかったとしたら、その従業員は、二度とその会社では働こうと思わないでしょう。

さらに、SNSで「あの会社は休業支援金に協力してくれなかった」という情報を流すかもしれません。これ自体は事実なので、名誉毀損にあたるかどうかは微妙なところです。そもそも、匿名の書き込みから書いた人をあぶり出すには、たいへんな手間と費用がかかります。

コロナ禍の先行きは不透明です。このまま飲食業や観光業がたちゆかなくなってしまうのか、それとも、また、以前に近いかたちで営業できるのか。後者の場合、以前からの従業員にまた働いてもらう、もしくは、新たに採用する必要が出てきます。

休業支援金の申請への協力を拒んだ会社は、仕事が戻ってきても、人は戻ってくるでしょうか。

わたしには、労働基準監督署よりも、いままでしっかり働いてくれた従業員が戻ってこない、そして、採用活動をしてもぜんぜん反応がないことのほうが、よほど怖い未来に見えます。

労働者は会社を見ている

休業支援金の申請を拒否する会社は、協力してもめんどうなだけで、とくにメリットがないと考えているのかもしれません。

自分の会社で働いている従業員が困っているのに、それを見過ごして、自分の都合だけ考えている、と従業員が感じるのは、最大のデメリットです。

従業員が休業支援金の支給申請をしたからといって、解雇や雇止めをしたり、パワハラをしたりしたら、もう最悪です。それこそ、もっと大きなトラブルを呼び込む行動です。

休業手当が出せない事情があるのであれば、休業支援金の申請を会社で取りまとめて行ってもよいくらいです。実際、そのような申請方法もあります。

いま、とても苦しいときだからこそ、だれかが助かるのに協力できるとしたら、そこに力を使うべきではないでしょうか。

なお、6割の休業手当は払えないけど、2割や3割ならなんとか、と考えているとしたら、それはやめにして、休業支援金を申請するよう従業員と相談して下さい。支援金は8割ですが、たとえ低率でも休業手当が支給されると、申請できなくなってしまいます。

従業員の方は、下のリーフレットを会社の担当者に見せるのもいいですね。

Footnotes

Footnotes
1 「労働基準法第26条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は休業期間中当該労働者に、その平均賃金の 100 分の 60 以上の手当を支払わなければならない。」コロナでお客さんが来ないんだからしかたないじゃないか、これが会社都合というのはひどい、と思われるかもしれませんが、従業員をそのまま働かせることもできるのに、休業させるというのは経営判断ですので、会社都合ということになります。
2 支給申請の内容を確認するための調査はありえます。
3 ただし、労働局が会社に報告を求めるので、支給時期が遅くなります。