「人間は男と女の2種類しかない。だから、男でも女でもないものは人間ではない」

これは、高校時代に受けた世界史の授業の中で、教師が述べた言葉です。

40年ほど前の話で、まだ子供でしたし、セクシュアルマイノリティについて、知識やなんらかの考えがあったわけではないですが、直感的に「ひどい」と思い、いまだに憶えていました。
けっこう好きな先生だったので、ショックでしたし。

しかし、このエピソードを書こうとして、「確か、司馬遷の宮刑[1]中国古代の刑罰で、男性を去勢するもの。腐刑ともいうの話じゃなかったっけ?」と思い出し、ちょっと調べてみると、どうもこれは、先生の考えではなく、司馬遷の言葉だったようです。

彼は、人の身に降りかかる様々な恥辱の中でも男性の誇りを奪う腐刑は最低なものだと言った[47]。そして、宮刑に処された者はもはや人間として扱われない存在だと述べた[44]。
出典:司馬遷 – Wikipedia

40年前どころか、2000年以上前の人の言葉を紹介しただけだったかも!
誤解だったとしたら、先生にはおわびしたいですね。まだご存命かどうかわかりませんが。

個人的な思い出話で前置きが長くなりましたが、労務管理をする者にとって、性別に関して知っておかなければならない話があります。

履歴書の性別欄が無くなるまでの17年間のあゆみ | ハフポスト

上記サイトから引用します。

6月30日、JIS(日本産業規格)の履歴書から性別欄をなくすよう、若者の労働問題にとりくむNPO法人POSSEやトランスジェンダーの当事者が、オンライン署名サイトChange.org(チェンジ・ドット・オーグ)のキャンペーン「履歴書から性別欄をなくそう #なんであるの」で集めた約1万名の署名を、経済産業省に提出した。

要望は受け入れられ、同省からJIS規格を管理する一般社団法人日本規格協会に行政指導がされた。同協会は2020年7月9日付で性別欄を記載してきたこれまでの履歴書の様式例の削除している。

協会はホームページ上で「公務員試験、高校入試などでは性別欄をなくす動きが全国的に広がりつつある中、引き続き掲載することによって、JISで規格されている、何らかの方向付けをしているなどの誤解を招きかねない。このことから削除することにした」と今回の経緯を説明した。

セクシュアルマイノリティの問題や、女性活躍について、とくに興味のなかった人にとっては、唐突な変化に思えるかもしれません。
しかし、タイトルにあるように、履歴書の性別欄をなくしてほしいという運動は17年前からあり、さまざまな経緯を経て、今回結実したということですね。

現在のJIS企画の履歴書には、本籍欄も家族構成欄もありません。
わたしが社会に出た頃にはどちらもふつうに記入欄にありました。
若い人は、過去の履歴書にそのような欄があったことも知らない、ということを先日知り、びっくりしたくらいです。

このような変化に、企業で人事労務、とくに採用活動に携わる人は、どのように対応すればよいのでしょうか。

・・・とくに、なにもする必要はありません。

そもそも、男女雇用機会均等法で、次の内容は、性別を理由とする採用差別にあたるため、禁止されています。

  1. 募集・採用の対象から男女のいずれかを排除すること。
  2. 募集・採用の条件を男女で異なるものとすること。
  3. 採用選考において、能力・資質の有無等を判断する方法や基準について男女で異なる取扱いをすること。
  4. 募集・採用に当たって男女のいずれかを優先すること。
  5. 求人の内容の説明等情報の提供について、男女で異なる取扱いをすること。

履歴書の性別欄に「男」と書いてあろうが「女」と書いてあろうが、対応を変えたら違法なのです。
法律上は、すでに不要な内容だったのが、いままで履歴書に残っていたため、差別をひきおこしていたとも言えます。

もうひとつ知っておくべきことは、「戸籍上の性別とは異なる性別を会社に告げても、法的には問題ない」ということです。
履歴書の内容にウソを書くのは、信義則違反で内定取り消しや解雇もありえますが、自分の性自認に基づいて性別を履歴書に記入しても、それはウソではないのです。
性別で扱いを変えることが禁止されているのですから、採用のときに聞いた性別と戸籍上の性別が違っていても、なんの問題があるのでしょうか。

やることがあるとしたら、「募集してもなかなかいい人いないよねー」と言いながら、「男性社員がほしい。女性はいらない。でも、パート社員は女性」という古い価値観から脱却することでしょう。

人口の半分を排除して「いい人」を探そうというのが、そもそも無理があります。
法律を守るためだけではなく、すでに始まっている人口減少社会、労働力不足の社会に対応していくには、採用する側の変化が求められています。

 

 

Footnotes

Footnotes
1 中国古代の刑罰で、男性を去勢するもの。腐刑ともいう