行為者(加害者)のみの研修の問題点

研修のご依頼の中で、ときどきあるのが、「ハラスメント行為者(加害者)だけに研修を受けさせたい」というご依頼です。

理由はさまざまで、予算の関係ということもありますし、つい先日全体でハラスメント防止研修をしたばかり、ということもあります。「まったく悪いことをしたという自覚がないので、そこをなんとかわからせてほしい」というご依頼もありました。

わざわざ外部講師を呼んで、それなりの費用をかけて、行為者ひとり、または、数名のために研修をやろうというのですから、当然そこには切実な事情があります。

しかし、いったんは「行為者だけではなく、管理職研修にすることはできませんか?」とおたずねしています。

もっとも大きな理由は、研修(教育)が懲罰として機能してしまっては、教育の意味がないからです。

ハラスメント事案が起こったときに傷つくのは、被害者だけではありません。
行為者も、「自分は不当な目にあわされている」、「メンツをつぶされた」という怒りや、「これから自分はどうなるのだろう」という不安を抱えている場合が多く、たいていとても衝撃を受け、悩んでいます。
そのような心理状態のときに「罰として研修を受けなさい」と言われたり、担当者はそのような意図がないとしても、本人が「罰として、自分ひとりだけ、特別な研修を受けさせられる」と感じてしまったら、研修の内容が頭に入るでしょうか?

どこのだれとも知らない人が来て、えらそうに自分にいろいろ指図をする。
自分の意見は聞いてもらえない。
こう思われたら、研修終了後に、「二度とハラスメントはしない」という意思を持ってもらうことなど不可能でしょう。

もうひとつ、当事務所の研修は、コミュニケーションに重点をおいているため、ほとんどの場合グループワークが入ります。講師と1対1では、それができないので、研修の方法が限られてしまうという事情もあります。

このようなご説明をしても、「いや、やっぱり加害者だけで」というご意思であれば、もちろんそのような形で依頼をお受けします。

社外の講師だからこそできること

ハラスメント行為者(加害者)のみの研修について問題点を書きましたが、このような単独、もしくは2,3名での研修自体が不必要なわけではありません。

要は、上に書いた問題点を解決するような研修であればよいわけです。

懲罰としてではなく、会社がハラスメント行為者を支援するために行うものであること。

行為者の怒り、不安等の感情、悩みに寄り添い、共感するものであること。

上のふたつの条件が満たされれば、少人数でその人の強み、弱みにぴったりフィットするものになり、当然その効果は高くなります。

ただこの場合、社外の専門家にまかせることを強くおすすめします。
ハラスメントの専門家であるだけではなく、産業カウンセラーや臨床心理士等、心理の専門家であることが、より望ましい条件です。

社内でこのような研修を行う場合、講師を務めるのは人事労務担当者または、経営者・役員となるでしょう。
研修を受ける人自身が、管理職であることがほとんどであり、講師役の人とは日頃からの人間関係もあります。
そして、講師役をする人からすると、ハラスメント行為者は「迷惑な人」である場合が多いです。

ハラスメント事案が明るみに出ると、問題解決のための聞き取り調査、アンケート、社内での勉強会、外部講師による研修、と、かなりの時間と人手、そして費用がかかります。
担当者や経営層が、その元凶である行為者に対して、平静に接することは難しいものです。
ましてや、密室で1対1になったらどうでしょうか。

相手も悩んでいる、相手も傷ついている、と思い、相手の自尊心を尊重して接することは、そのような感情がある場合、とくに訓練を受けていない人にとっては、なかなか難しいことです。
自分の迷惑も考えろ、悪いことをしたのだから罰を受けるべきだ、という思考にとらわれてしまいがちですが、これでは、まさに、前半で書いた「懲罰としての研修」になってしまいます。

社外の専門家は、そもそもハラスメント行為者に対して、人間関係もなく、迷惑もかけられていません。白紙の状態です。
さらに、その専門性によって、行為者がどのような心理状態であるかも、かなり想像がつきます。
そんなことは人によってさまざまだろうと思うかもしれませんが、実は驚くほど似通っているものです。

行為者への研修の場合、前半はかなりカウンセリングに近いやりとりになります。
相手に多く語ってもらい、その感情を尊重する。
そのような中で、これは罰ではなく、会社は行為者が立ち直ってさらに仕事に熱意をもって取り組んでほしいからこのような場を設けたということも、すんなり受け入れられるようになります。

実際、圧迫したり排除したりする目的であれば、わざわざ費用を使って専門家を呼ぶわけはありません。
冷静に考えればすぐわかることなのですが、行為者の多くはその冷静さがなくなっている状態なので、心の中にわだかまっている感情をはきだして、冷静さを取り戻してもらうことが必要なのです。

そこまでいけば、その後はそんなに難しくありません。
ハラスメントについて学んでもらう場面では、もともと能力が高い人であることが多いので、マンツーマンでお話すると深く理解していただけることも多いですね。

その後、現状の問題点を考え、行動目標を設定してもらいますが、講師も驚くほど、自己認識を深め、周りへの配慮を示すことも珍しくありません。
人は変われるものだなぁ、と思います。

外部講師の問題点

このようにうまくいった例もいくつも思い浮かびますが、外部講師にも、やはり問題はあります。

まずひとつめ、そして最大のものは、行為者との間の人間的な「相性」です。
これはハラスメント対策の場面に限ったことではなく、カウンセリングという心理的なプロセス全体に言えることです。

どんな相手だろうと、そこそこやるのがプロでしょう? と思われるかもしれませんし、敗北宣言のような感じもします。
実際、ほとんどの場合は、専門家としてもっているスキルで、相性問題はかなり克服できると思っていますが、決定的にだめなときもあることを、告白しておかなくてはなりません。

通常のカウンセリングと違って、このような研修は一発勝負です。
最初の3分で勝負が決まるといってもいいでしょう。
ここで信頼感を感じてもらうか、「なんだこいつ」と思われるかで、その後の内容が決まってしまいます。
とても緊張しますが、緊張していては相手にも伝わってしまいますので、われわれ専門家にとっても難しい仕事の一つです。

もうひとつの問題は、せっかく研修自体がうまくいっても、継続的な関わりではないため、時間がたつにつれてそのときの気持ちを忘れてしまい、もとに戻ってしまいやすいことです。

この点については、さまざまな工夫でのりこえることができます。
最初からそのような視点をもって、終了後のフォローを考えてくれる講師を選ぶことも、大きなポイントになります。

専門家を有効に活用しよう

タイトルに戻って考えてみると、ハラスメント行為者のみの研修は、全体もしくは管理職研修では得られない効果もあるが、注意点も多い、ということになります。

ぜひ、専門家にご相談下さい。