1. 多様化する◯◯ハラの現状
近年、職場におけるハラスメントの形態が多様化し、さまざまな「◯◯ハラ」という言葉がメディアで取り上げられ、新しい概念が次々と生まれています。
よく話題に上る◯◯ハラの例としては、下記のようなものがあります。
- モラルハラスメント(モラハラ)
- ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)
- 不機嫌ハラスメント(フキハラ)
- アルコールハラスメント(アルハラ)
- スモークハラスメント(スモハラ)
- ソーシャルメディアハラスメント(ソーハラ)
- テクノロジーハラスメント(テクハラ)
- ロジカルハラスメント(ロジハラ)
これらの◯◯ハラは、社会の変化や価値観の多様化に伴って生まれてきたものですが、多くの場合、明確な定義がないまま使用されています。
この状況は、職場でのハラスメント対策に新たな課題をもたらしています。
2. 就業規則への記載:厚生労働省が示すハラスメントを優先
就業規則にハラスメントに関する規定を設ける際は、まず厚生労働省がガイドライン等で示しているハラスメントを優先して記載することが重要です。
具体的には以下の3種類のハラスメントが該当します。
- セクシュアルハラスメント(セクハラ)
- パワーハラスメント(パワハラ)
- 妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント(マタハラ・ケアハラ)
これらのハラスメントは、法的根拠があり、明確な定義と防止対策が示されています。
就業規則に明記することで、法令遵守と従業員の保護を確実に行うことができます。
また、近々カスタマーハラスメント(カスハラ)についても、事業主になんらかの対策を求められることが予想されています。
この動向にも注目し、適宜対応を検討する必要があります。
3. 「その他のハラスメント」の扱い方
新たに出現する◯◯ハラについて禁止したい場合は、それぞれの名称を記載するのではなく、定義や代表的な例を示し、「その他のハラスメント」として包括的に扱うのが適切です。
この方法には以下のメリットがあります。
a) 柔軟性の確保
定義が流動的な◯◯ハラを個別に規定すると、社会の変化に応じて頻繁な改定が必要になる可能性があります。
「その他のハラスメント」として包括的に扱うことで、柔軟な対応が可能になります。
b) 混乱の回避
明確な定義のない◯◯ハラを単語として使用すると、解釈の違いによる混乱が生じる可能性があります。
例えば、「フキハラ」の定義や範囲について、「不機嫌とはどういう態度なのか」ということについて、従業員間で認識の差が生じる可能性があります。
定義や代表的な例を記載することにより、このような問題を回避できます。
c) 注意喚起の効果
「その他のハラスメント」として代表例を示すことで、従業員に広く注意を促すことができます。
新しい形態のハラスメントについても、従業員の意識を高めることができます。
4. 効果的な「その他のハラスメント」の記載方法
「その他のハラスメント」を就業規則に記載する際は、以下の点に注意しましょう。
「ジェンダーハラスメント」を例にとって説明します。
- 一般的な定義を示す
例:「個人の性別、性自認、または性的指向に基づいて行われる、不適切かつ望まれない言動や行為」 - 具体例を挙げる
例:「性別役割分担意識に基づく差別的な発言や行動、性的少数者に対する侮辱や嘲笑、特定の性別に対する不当な扱い」 - 禁止行為であることを明記する
例:「上記の行為を禁止し、これらの行為によって職場環境を悪化させた従業員に対しては厳正に対処する」 - 禁止規定に抵触した場合、どのような懲戒処分に当たるのか明示する
例:「上記の行為が確認された場合、その程度や状況に応じて、就業規則◯◯条に基づき、訓戒、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、または懲戒解雇等の処分を行う」
5. ◯◯ハラへの具体的な対応例
新しい形態のハラスメントへの対応例として、例えば、以下のようなアプローチが考えられます。
- フキハラ(不機嫌ハラスメント):
職場のコミュニケーションスキル向上研修を実施し、感情管理の重要性を伝える。 - ジェンハラ(ジェンダーハラスメント):
ダイバーシティ&インクルージョン研修を通じて、性別に関する固定観念や偏見の解消を図る。 - モラハラ(モラルハラスメント):
メンタルヘルス研修と組み合わせ、心理的な攻撃がもたらす影響について理解を深める。 - アルハラ(アルコールハラスメント):
飲み会マナーや適切な飲酒量について、社内ガイドラインを作成し周知する。
就業規則においては「その他のハラスメント」として包括的に扱いつつ、具体的な防止策を講じることで、職場環境の改善につながります。
結論
◯◯ハラの増加に対応するには、厚生労働省が示すハラスメントを就業規則に明記しつつ、新たなハラスメントについては「その他のハラスメント」として柔軟に対応することが効果的です。
この方法により、法令遵守と従業員保護のバランスを取りながら、変化する社会情勢に適応した職場環境づくりが可能となります。
また、継続的な教育と啓発活動を通じて、従業員一人ひとりのハラスメントに対する意識を高めることが重要です。
これらの取り組みにより、多様な人材が互いを尊重し、いきいきと働ける職場の実現につながるでしょう。
とくにカスタマーハラスメントについては、今後の規制動向にも注目し、適切に対応していくことが求められます。
常に最新の情報を収集し、必要に応じて就業規則や社内ガイドラインを更新していく姿勢が大切です。