パワーハラスメントといえば、多くは上司が行為者(加害者)、部下が被害者という形です。
図のグラフを見ても(画像クリックで大きな画像が表示されます)、「会社の幹部(役員)から部下へ=11.1%」、「上司(役員以外)から部下へ=76.5%」と「上から下へ」のパワハラが多数を占めています。
しかし、「部下から上司へ=7.6%」、「同僚同士=36.9%」と、「同等もしくは下から上」というパターンも、無視できない数であることがわかります。
「部下から上司へ」は、「逆パワハラ」と言われることもあるのですが、これもパワハラの一部で、とくに「逆」というわけではありません。
外部相談窓口を担当していると、「部下からパワハラ(セクハラ)されている」という訴えも案外多く、上司の側からなかなか言い出しにくいことだけに、実態は統計に出ている数字よりも、もっとあるのではないかと感じています。
部下から上司へのパワハラの条件
パワハラの3つの要件をここでちょっとおさらいしてみましょう。
法律の定義では、下の3つの要素をすべて満たすものがパワハラとされています。
①優越的な関係を背景とした言動であって、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③労働者の就業環境が害されるもの
上司から部下へのパワハラの場合は、①の「優越的な関係」については、考えるまでもなくあてはまるのですが、部下から上司へのパワハラの場合は、あてはまるのは、部下が上司より立場が強くなるような事情がある場合のみとなります。
厚労省が例として出しているのは、下のようなものです。
- 同僚又は部下による行為で、当該行為を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
- 同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの
これはあくまでも例示ですので、部下が上司より優位な立場になってしまうような状況は、ほかにもいろいろ考えられます。
- 部下が体格が大きく常に威圧的な態度を取っている。
- 部下が顧客に豊富な人脈を持っていたり、会社上層部と縁戚関係である。
- 部下が他の従業員の実質的なまとめ役になっており、上司は後から職場に入ってきた。
- 部下が新しい事業やプロジェクトの立ち上げメンバーとして、社内で戦略的な役割を果たしている。
- 元は高い役職にあった人が、役職定年で降級し、現在の上司の部下となった。
ざっと考えられるのはこんなところですが、他にもいろいろあるのではないでしょうか。
①の要件に該当するかどうか判断する場合には、上記のような「部下が上司よりも立場が強くなってしまうような事情」があるかどうかを見ます。
②③の要件については、上司が行為者の場合と、とくにかわりありません。
指導がうまくいかないからといって、上司の力不足とは限らない
部下が上司に暴言を言い続け、上司が体調を崩したり、出勤できなくなってしまったりした場合、上のような事情があれば、パワハラであるという判定になるでしょう。
「部下がいうことをきかないからと言って、パワハラの訴えをするのは、上司としての指導力不足ではないか」という見方もあり、上司自身がそのように思い込んで、追い詰められるまで、なかなか自分の上司や会社の管理部門に相談できなかったりします。
しかし、いままでの筆者の体験では、上司の側から「パワハラだ」という訴えが出てくるような部下は、だれが指導してもなかなか難しいのではないかと思われるタイプの人が多く、あながち上司の力不足とも言えないのではないかと考えています。
それほどの「問題社員」でなくても、人間同士の相性でうまくいかないこともあります。
パワハラ相談を会社にするような事態になる前に、自分自身の上司や、同じような管理職の同僚等に、早めに悩みを打ち明け、アドバイスをもらうのが得策です。
場合によっては、会社の管理部門と協調して、部下の転勤・降格・解雇等の人事上の問題として扱ったほうがよい場合もあります。
「自分の部下なのだから、自分で解決しなくては」と、ひとりで抱え込もうとしないことが大切です。
他の従業員に被害はないか確認する
上司が「部下からパワハラされている」と、会社に相談することの利点は、ほかにも被害者がいるのではないかという調査が入る点です。
上司が自らの被害を会社に相談するとともに、部下への被害がある場合に、その内容をとりまとめて、部署の代表として相談することもできます。
上司に対して常に反抗的な態度で、パワハラの疑いが出てくるような人は、同僚にも自分の優位性を笠に着て、言いたい放題、やりたい放題だったりするものです。
同僚同士で、相手の威圧的な態度にみんなが恐れをなして逆らえないような状態では、なかなかハラスメント相談をするのは難しいものです。
上司が率先してハラスメント相談をし、他の被害者についても会社との間をつなぐように行動すれば、行為者を恐れて被害の申告ができない他の従業員も、被害について会社に報告することができます。
会社としても、このような相談が来た場合には「他に被害者がいないか」という点をしっかり調査するようにしましょう。