ブラック企業を逃げ出す方法 これなら今すぐ辞められる – 自分の心を殺してはいけない
上のリンクは、12月にかなり話題になったブログ記事です。

労働者側からのご相談は、積極的には請けていないとはいえちょくちょくあり、やはり多いのがパワハラと並んで「退職させてもらえない」という内容です。

最初は、世間では、「退職するときに会社の同意は必要ない」ということは案外知られていないという事実に、かなり驚きました。
法律の専門家として当たり前の常識が、一般の方の常識とずれてしまっている一例でしょう。
気をつけたいものです。

話を元のブログ記事に戻すと、法律的な根拠も書いてあり、同じような状況の方にはかなり参考になるものです。
そして、経営者の側からしても、知らずに、さまざまな法律違反を犯さないために、読んでおくべきものでしょう。

もう一度書きますが、「従業員が自己都合退職を申し出た場合、民法の規定により、2週間経てば自動的に退職が成立する」のです。
会社が同意しようとしまいと関係ありません。

もうひとつのポイントは、「退職間際の従業員が残っている有給休暇を消化してから退職しようとした場合、会社は拒否できない」ということです。
基本的に、有給の申請があれば、会社は拒否できません。
時季変更権はありますが、「他の日に強制的に変えさせる」というのは、よほどの場合だと考えておいたほうがよいでしょう。
労働者が有給休暇を取得したら、仕事が回らないような体制になっているのは、会社側の責任です。
退職間際の場合は、他の日に変更する余地がないため、会社は受け入れるしかなくなります。
これを拒むと労働基準法違反です。
あまり適用されることはありませんが、「6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金」という刑事罰もついています。

また、上記ブログ記事にも触れられていますが、「勝手に退職したからといって、最後の給与を払わない」というのは、賃金未払いで労働基準法違反です。
こちらの罰則は「30万円以下の罰金」です。

従業員が労働基準監督署に申告すれば、監督官からすぐに電話がかかってきます。
もしくは、調査の後、違反があれば是正勧告の対象となります。

また、未払い賃金について、民事で裁判を起こされて負けてしまうと、未払い賃金以外に年利 6% の遅延損害金も支払うことになります。

裁判なんて、個人で簡単に起こせない、と、たかをくくっていてはいけません。
労働審判、労働局のあっせんなど、裁判よりも敷居の低い方法が用意されています。

さらに、退職を拒否するとき、経営者や管理職が言った言葉が問題になることがあります。

いままで、当事務所に寄せられたご相談で直接聞いたのは、このようなものです。

「このへんで就職できないようにしてやる」
「損害賠償を請求する/訴える」
「退職金は払わない」
「家族の安全は保証しない」

最後のは、完全に脅しですね。
会社側の人間と話す時、退職しようとする従業員は、最初から録音しているときが多いと思ったほうがよいでしょう。
とくに、電話だとスマホで簡単に録音できるので、言葉には注意が必要です。

ちなみに、損害賠償の請求は、裁判に提起することはできますが、まず認められることはありません。
損害額がはっきりしていて、従業員にも相応の落ち度があれば一部認められることはありますが、「勝手に退職されたから業務に支障をきたした」という理由では、勝ち目はないでしょう。
理由は、有給休暇取得について書いたことと同じですが、「労働者がひとり退職したからといって、業務に支障をきたすような労務管理を行っている経営者に責任がある」とされるからです。

また、退職金規定に則って退職金を支給しないと、訴訟を起こされる可能性は高くなります。
判例では退職金の全額不支給を認めた例は少なく、労働者有利の判断が多くなっています。
昭和59年の古い判決ですが「円満退職ではないと、退職金を支払わない」という退職金規定があったにも関わらず、会社側に退職金支払を命じられたものもあります。(昭和59年7月25日 大阪地判 日本高圧瓦斯工業事件)

もちろん、最初からトラブルを起こすのが目的の労働者もいないわけではないですが、そもそも労働者が無理にやめようとするのは、会社との信頼関係がないということの証拠です。
従業員が民法を持出してまで退職しようとしたら、労務管理を見直す必要があるというサインでしょう。