「課長、またAさんからLINEで欠勤の連絡です」
「またか、この忙しいのに、朝になって急に欠勤の連絡とはどういうことだ」
「体調が悪いといっています」
「困ったな、Aさんが急ぎで対応しなければならない案件があるんだが。Aさんにメールで対応方法を聞くしかないな」

あなたの会社では上のような会話が聞こえてくることはないでしょうか。

近年、テレワークの普及やデジタル化により、時間や場所にとらわれない働き方が増えています。
その一方で、「欠勤中なのに仕事の電話に出なければならない」「自宅でメール対応を求められる」といった状況も発生しています。
今回は、欠勤中の業務対応について、労働法の観点から解説します。

労働時間とは何か?

まず、労働時間の定義から確認しましょう。
厚生労働省によれば、労働時間とは「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」[1]リーフレット「労働時間を適正に把握し正しく賃金を支払いましょうとされています。
つまり、会社から業務の指示を受けて従事している時間は、場所や状況に関わらず、すべて労働時間としてカウントされます。

この定義に従えば、欠勤届を提出した後でも、会社からの指示で業務(電話対応やメール返信)を行った場合、その時間は労働時間として扱われることになります。

欠勤中の業務対応がもたらす問題点

冒頭の例の課長さんは、欠勤時でも会社から「この案件についてどう対応したらよいか」というメールを出し、それに対して返信を作成する時間は労働時間になってしまうことを知らないのかもしれませんね。
それとも、知ってはいても、「メール対応なんて5分でできるんだから、いちいち労働時間とかおおげさだ」と考えているのかもしれません。

しかし、そのように考えて欠勤中に業務対応をさせることを繰り返していると、次のようなリスクを抱えることになります。

1. 後日未払い分の賃金を請求される可能性

欠勤中の業務対応は、労働基準法上の労働時間として扱われます。
欠勤控除がされていても、その間の業務対応については賃金が発生します。

欠勤中の業務対応を労働時間としてカウントせず、給与の支払いに入れていないと、後日、未払い賃金として請求される可能性があります。
特に、このような場合は業務対応の記録が曖昧になりがちで、実際の対応時間を巡って紛争に発展するリスクもあります。

未払い賃金の請求は3年間さかのぼって可能[2]当分の間の経過措置。原則は5年とされており、場合によっては残業代の対象ともなりうるため、企業側の金銭的なリスクは決して小さくありません。

2. 健康管理上のリスク

欠勤を必要とする状況下での業務対応は、従業員の健康に重大な影響を及ぼす可能性があります。

特に体調不良による欠勤の場合、業務対応により必要な休養が取れず、病気の回復を遅らせることになりかねません。
また、休むべき時に業務から心理的に離れられないことで、メンタルヘルスの悪化を招く恐れもあります。

このような状況が続けば、従業員の健康状態は更に悪化し、長期的な病気につながる可能性も考えられます。

3. 会社への不信感を生む

欠勤中の従業員に業務対応を求めることは、職場の信頼関係を大きく損なう要因となります。

従業員は「休む権利が実質的に認められていない」という不満を抱き、「休んでも仕事から解放されない」というストレスを感じることになります。
このようなことが繰り返されると、上司や会社に対する不信感が生まれます。

さらに、このような状況を見ている他の従業員のモチベーションも低下し、職場全体の雰囲気にも悪影響を及ぼすかもしれません。

適切な対応方法

では、このようなことにならないために、どのように対応すればよいのでしょうか。
急な休みであわてないために、次のような方法が有効です。

1. 情報共有方法の整備

業務に関する情報を個人で抱え込まないよう、日頃から情報共有の仕組みを整えることが重要です。
案件の進捗状況や顧客との対応履歴、重要な期限などの情報をチーム内で共有できるシステムを構築しましょう。

システムの構築、というと、デジタルで、と考えがちですが、通常の紙のファイルに必要な情報を都度入れておき、だれでも必要なときにファイルを閲覧できるようにしておくだけでも、目的は達成できます。

もちろん、デジタルで対応できれば、そのほうが業務効率化につながります。
共有フォルダやプロジェクト管理ツールなどを活用し、必要な情報にいつでもアクセスできる環境を整備することで、突発的な欠勤にも対応できる体制が作れます。

2. 複数人で業務にあたる

特定の業務を一人だけが担当する状況は避け、常に複数人で対応できる体制を整えましょう。
日頃から業務の進め方や重要なポイントを共有し、互いの業務をカバーできるよう研修やOJTを実施します。

急な欠勤に対応できるだけでなく、周りの業務についても理解が深まることで、チーム全体のスキルアップと相互支援体制の強化につながります。

3. 緊急時のルール策定

欠勤者が出た際の対応について、明確なルールを設定しておく必要があります。

重要なのは、どのような場合に欠勤者への連絡が許可されるのか、また誰がその判断を行うのかを明確にすることです。

場合によっては、顧客に対して対応が遅れる可能性があることを説明し、理解を求めることも必要です。
顧客との信頼関係を損なわないためにも、「従業員の健康管理を重視する会社の方針」として丁寧に説明することが望ましいでしょう。

4. 管理職への教育

管理職には、欠勤者への適切な対応について、しっかりとした教育を行う必要があります。

特に、労働時間管理の基本的な考え方や、欠勤中の業務指示が労働時間として扱われることへの理解を徹底させましょう。
また、部下の健康管理の重要性についても意識づけを行い、安易に欠勤者への連絡を取ることのリスクを理解させることが大切です。

管理職自身が「休むことは権利である」という認識を持ち、部下が安心して休暇を取得できる職場づくりを推進できるよう、定期的な研修の実施が望まれます。

5. 就業規則の整備

欠勤時の取り扱いについて、就業規則に明確な規定を設けることが重要です。
欠勤中の従業員への連絡や業務指示に関する基準、その場合の労働時間の取り扱いなどを具体的に定めておく必要があります。

また、近年増加しているテレワークに関する規定も整備し、在宅での業務対応が必要となった場合の手続きや賃金の取り扱いについても明確にしておきましょう。

これらの規定は、従業員の権利保護と適切な労務管理の両面から重要な意味を持ちます。

働きやすい職場づくりのために

欠勤中の業務対応は、場合によっては必要となることもありますが、できる限り避けるべき状況です。

以下の点に注意して、適切な労務管理を行いましょう。

  1. 欠勤中の業務対応は労働時間として扱う
  2. 健康管理の観点から、必要最小限にとどめる
  3. 事前の体制整備で緊急対応を減らす
  4. 明確なルールを設定し、全従業員に周知する

働き方改革が進む中、労働時間管理の重要性は増すばかりです。
欠勤中の業務対応について、改めて自社の状況を確認し、必要な改善を行うことをお勧めします。

また、上記の対策の意義は、欠勤中の業務対応のリスクを減らすことだけではありません。
「この忙しいのに、また休みか!」という職場のぎすぎすした雰囲気をなくすことができます。
そして、必要なときに安心して休める体制ができるため、育児・介護中の従業員や、持病のある従業員も仕事に打ち込むことができます。
働きやすい職場づくりのために、このような対策に取り組むことが急務です。

それぞれの職場でどのように対策したらよいのか、具体的なお悩みについてはぜひお近くの社会保険労務士、または全国対応のメンタルサポートろうむにご相談ください。

Footnotes

Footnotes
1 リーフレット「労働時間を適正に把握し正しく賃金を支払いましょう
2 当分の間の経過措置。原則は5年