ハラスメント防止の研修では、よくワークとしてケーススタディ(事例研究)を行います。事例を読んで、どのように対応したらよいか、グループ討議をし、発表してもらいます。そしてその後、わたしのほうから解説を行います。
とりあげる事例は、わたしが作った架空のものですが、完全に創作ではなく、具体的な言葉などはたいてい判例からとっています。
今回、こんな事例を書いてみました。もっとも、ここで発表してしまうと、そのまま研修には使えませんが。
ケーススタディ:老舗企業のA社
背景
A社は、地域の製造業の中では歴史があり、地元では優良企業として通っています。業界の中では中心的な存在です。
今回、同業他社の社員も集めて若手の新たな研究会を主催することになり、初回打ち合わせのために、A社の会議室に30代の主任クラスを中心に他者の社員が30名ほど集まりました。A社からの出席者は5名でした。
その中のひとり、B社のCさんは、都会的な風貌の女性で、男性が多い業界の中ではかなりめだった存在でした。今回の打ち合わせでは、女性の参加者はCさんひとりでした。
B社は、A社に比べると歴史も浅く、社員数も少ないのですが、最近急激に売上を伸ばしている会社です。
問題となったできごと
打ち合わせの中で、Cさんが子育て中の女性ユーザーにアピールする方法について熱心に意見を述べると、参加者の中のだれかが、ひとりごとのようにこう言いました。
「結婚もしてないのに、なにがわかるのかな。自分がまず子供を持つほうがさきじゃないの? それとも、産めないのか?」
Cさんは驚いて声がしたほうを見ましたが、今回初めての顔合わせということもあり、だれが発言したのかはわかりません。声はA社の社員が座っているあたりから聞こえました。
さらに、追い打ちをかけるように、別の声がこう言いました。
「不倫中だって聞いたよ。結婚できるわけないじゃん」
ほかの男性参加者は、そのような発言をとがめるようすもなく、にやにやしています。
Cさんは顔をこわばらせたまま打ち合わせを終え、自社に戻って行きました。
B社・A社それぞれの対応
帰社したCさんから話を聞いたB社の上司は、驚きあきれてA社に連絡をし、侮辱的な発言をした社員がA社のものであるらしいので、だれであるかを特定して、セクハラ事案として処分してほしいと伝えました。
ところが、A社からの回答は、「他者の社員もおおぜいいた場であり、弊社の社員の発言かどうかもわからない。そのような発言自体も、打ち合わせに参加した弊社の社員は聞いた覚えがないと言っているので、とくに対応しない」というものでした。
ネットでの炎上とCさんの受診
Cさんは上司を通じてその回答を知り、ツイッターにことのてんまつを書いてしまいました。そのツイッターの発言は、何千回もリツイートされ拡散されました。A社のホームページ内にあるブログには抗議や脅迫的なコメントが数百件も書き込まれる騒ぎとなりました。
さらには、ネットを通じてA社に抗議する署名が始まり、不買運動を呼びかける声も広がってきました。
また、逆にネット上にはCさんの個人情報が暴露され、不倫しているかどうかがとりざたされたため、Cさんはショックを受けて会社を休んでしまいました。1週間ほどして、「抑うつ状態のため、1ヶ月の安静加療を要する」という診断書とともに、本人から休職願いが届きました。
さて、あなたがA社の経営者だったら、どのように対応しますか?
問題を見るポイント
- セクシュアルハラスメントの対象は、自社の社員だけではありません。打ち合わせに訪れた他社の社員も被害者になることがあります。
- まずは、事実関係を調査する必要があります。事実を隠蔽・放置しようとするのは最悪の対応です。
- ネットの炎上に対しては、誠意をもった迅速な対応が求められます。
- 被害の状態に応じては、会社として謝罪・補償する必要も出てきます。
- 再発防止のための対応も必要です。
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