「あの人は悪い人ではないんです」

ハラスメントの相談を受けていて、会社側の担当者からよく出てくる言葉です。
実際、わたくしがお会いしても、感じの悪い人にはほとんどお目にかかったことがありません。

とくにパワハラの場合、その会社である程度力を持っている人が加害者になる場合が多いので、仕事がよくでき、初対面の人に礼儀正しく、適切にふるまえるタイプが大多数ということでしょう。

被害を受けている側からすると、とんでもない! 見た目にだまされちゃだめだ! と思うかもしれません。

でも、日本社会では、職場のハラスメントというのは、長い間「悪いこと」ではなかったのです。

現在パワハラと言われていることも、「部下を厳しく指導」することだったり、セクハラと言われていることも「オトコとはそんなもの」と片付けられていました。

もちろんセクハラ、パワハラという言葉がない時代でも、被害者が傷つけられていたことには代わりありません。
いま中年以上のビジネスパーソンに話を伺うと、「当時はそんな言葉はなかったけど」と言いながら、被害を受けた体験についてはみなさんよく覚えています。
その人たちも、若い頃は「そんなものだ」と思いながら耐えていたのです。
当時、自分たちを苦しめていた上司や同僚について「あの人は悪い人だった」とは思っていないでしょう。

多くのハラスメント加害者は、そんな時代に育ち、またはそんな時代に育った人たちの影響を受け、自分自身の行動を、時代に合わせて更新する機会のなかった人です。

加害行為をする人をかばおうとして、こんな話をしているのではありません。

加害者も、加害行為を指摘されると苦しみます。
なんとか否定しようとします。
「自分はそんなに悪い人間ではない」ということ自体は事実なのですが、「自分は悪いことはしていない」と飛躍してしまうのですね。
懲戒や会社内での立場が悪くなる恐れから、必死で否定することもよくあるのですが、その根っこには自分という存在を否定される恐れもありそうです。

加害者が自分の行為をまったく問題と思っていない、と知ると、被害者をさらに傷つきます。

何度も話し合いをしても、加害者に反省の色が見えないと、人事労務担当者も困惑します。
だいじなことは再発防止なのに、懲戒や配置転換をしたとしても、これでは意味がない、どうやって解決したらよいのか、と悩みます。

ハラスメント防止の専門家として言いたいことはひとつです。

悪い人ではない、ふつうの人でも、だれでも間違いは起こします。
間違っていることに気づいたら、それを認め、謝罪し、自分を変える勇気を持ちましょう。
いつまでも「自分は悪くない」というところに固着していると、ますます話はこじれ、みなが不幸になります。

加害者とお話して、この点に気づいてもらえるようサポートするのが自分の役目だと思っています。

まずは行動を変えていく。
内面が変わるかどうかはわかりませんが、そこが第一歩です。

(追記19/07/02 11:41 ご指摘を受けてタイトルを見直しました)