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中日新聞:遠足中止手紙偽装のJTB元社員逮捕 :社会(CHUNICHI Web)

JTB中部多治見支店(岐阜県多治見市)の男性社員が、岐阜県立東濃高校(御嵩町)の遠足バスの手配ミスを隠すため、生徒を装って遠足中止を求める手紙を同校に届けた問題で、県警捜査一課と可児署は5日、偽計業務妨害の疑いで、社員だった名古屋市千種区朝岡町、無職城谷慧容疑者(30)を逮捕した。城谷容疑者は同日付で懲戒解雇された。
 逮捕容疑は、手紙を東濃高に届けたことで、教職員らが生徒の安否確認に追われ、通常の業務を妨げたとされる。可児署によると、城谷容疑者は「間違いありません」と容疑を認めている。
 東濃高は全校生徒317人が4月25日、学年ごとに分かれて名古屋市の東山動物園などへ行く遠足を予定し、1月にJTB中部に発注。東濃高やJTB中部によると、出発前日の24日に担当の城谷容疑者がミスに気付き、生徒を装って「遠足をするなら私は消えます」と自殺をほのめかす手紙を自作し、「校門に落ちていた」と届けた。

バス11台手配し忘れ、というのは、もちろん重大なミスですが、気づいた時点で会社に報告して善後策を講じていれば、この一件だけで解雇になるかどうかは微妙なところでしょう。少なくとも、隠していなかったら、懲戒解雇まではいかなかったのではないかと思われます。

それが、妙な隠蔽工作をやった結果、会社には運輸局の検査が入り、県から損害賠償請求も検討されています。しかも、本人は逮捕され、実名で報道されてしまいました。

遠足中止手紙で、JTB中部に立ち入り検査 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

JTB中部に損賠請求を検討 高校遠足中止で岐阜知事「言語道断だ」 – MSN産経ニュース

ぞっとするような展開ですね。社員教育のネタにはぴったり、というニュースではありますが、「ミスを隠すとこんなに恐ろしいことになりますよ」と教育すれば、それですむというものではありません。

運輸局が立ち入り調査をしたように、これは、この社員個人の問題ではなく、直前までチェックするシステムがなかった、または、チェック体制があってもそれが機能していなかった、組織の問題です。経営者や人事労務担当者としては、ミスが再発しないような体制を作る、そして、ミスしてしまったときに適切な報告や相談ができる体制を作る、ということを、まず考えなくてはなりません。

そして、このニュースを聞いて感じるのは、逮捕された社員は、まわりにだれも相談できる人がいなかったんだろうなぁ、ということです。

自分がやってしまったことが恐ろしくなり、上司にすぐに報告できなかったとしても、青くなって「やっちゃった・・・どうしよう」と告白できるような同僚や友人がいれば、「遠足さえなくなればいいんだ」という幼稚な発想から、ニセの手紙を作成するというバカバカしい偽装工作はせずにすんだでしょう。

偽手紙を思いついてから、作成し、実際に届けてしまうまで、冷静になって思いとどまるチャンスは何度もあったはずです。そして、冷静になるためには、頭を冷やすよう助言してくれる、そして、失敗を挽回するために助力してくれる、身近な第三者の存在があるかないかが、分かれ道になってしまいます。

もうひとつ感じるは、自分のミスを認めることができない、心理的なバリアの存在です。

上司に怒られる。社内での立場が悪くなる。懲戒や降格がまっているかもしれない。ひょっとしたらクビになるかも。そのように考えて、なんとか隠したくなるのは人間の常です。荒唐無稽な言い訳や隠蔽工作を必死で考えるのも、この人だけではないでしょう。

でも、そういう現実的な恐れだけではなく、別の理由から、自分のミスを絶対に認めることができない、という人がいます。

それは、「ミスを責められることは自分自身を否定されること」「ひとつでも失敗すれば、もう自分の居場所はない」という考えにとらわれている人たちです。

JTBというのは人気企業であり、そこに入社してくる社員は選ばれた立場であるとも言えます。

たとえばいままで大きな挫折がなく、重大なミスをして謝罪したり、善後策に走り回り、自分の部署や会社自体に大きな迷惑をかける、という経験がなければ、ひとつのミスが、世界の終わりのように感じるかもしれません。

または、いつも気を張って、完璧な自分でいなければ、自分なんてだれにも認められない、という、優秀なのに自尊感情が低い人が陥りがちな心理だったのかもしれません。

自尊感情というのは、「自分には価値がある」と感じることですが、「自分はエライ、すばらしい」というだけではなく、人間的な欠点があることも認め、「それでも全体としてはなかなかちゃんとやってるよね」というバランス感覚でもあります。

健全な自尊感情を持っている人は、もし失敗をしてしまっても、それだけで自分のすべてが否定されるとは考えません。一時は落ち込んだりしても、心に弾力性があるために、へこみっぱなしではなく、いずれ気分が上向いてまた前向きに考えられるようになります。

ミスをした部下に注意するときは、その部下の人格や能力を否定する、つまり「人」にフォーカスするのはなく、ミスした「こと」にフォーカスしましょう、というのは、管理職教育の際に何度もお伝えしているところです。

それは、パワハラを防ぐためだけでなく、部下の自然な自尊感情を育てるためにも必要なことです。

ミスしてしまったときに「バレたら自分はもうダメ」「絶対にミスを隠し通さなければ」という袋小路に陥り、結果的に会社に大きな打撃を与えないための予防策でもあるのです。

写真は、どこか愛嬌のある大谷寺の仁王様です。