「美人」と言われてもうれしくない

テレビを見ていると、よくこんな表現に出会います。
「美人◯◯」
◯◯には、職業名などが入ります。
現在は平昌オリンピックの真っ最中ですから、女性アスリートに対しても、よく使われています。

わたしは、こういう言い方が気になって仕方ありません。
正直言って、かなり失礼な感じがします。

女性が「美人」「きれい」と言われたら、だれでもうれしいはず。
ほめているのに、なにがいけないの? というのが一般的な感覚でしょう。

しかし、マスコミに取り上げられるような人は、職業人として、アスリートとして、努力して高い能力を獲得し、現在の地位を得ています。
その努力や能力を称えるのではなく、まず先に出てくるのが「美人」という言葉。
これは、「容貌に魅力があると評価されることは、その女性が持っているほかのすべての価値よりもたいせつ。ほかの価値はどうでもいい」というメッセージを、マスコミが年中発信しているということです。

さらに、「美人◯◯」という言い方は、主に女性に対して言われることばです。
男性で「イケメン◯◯」という言い方もないではないですが、比率としては圧倒的に女性でしょう。
女性だけが容貌で評価される、というところが、大きな問題なのです。

見た目ではなく、職業人として、能力で評価してほしい。
女性として魅力があるかどうかで、勝手に評価しないでほしい。
評価の中身がプラス(美人)であればいいというものではない。
そう思っている女性は少なくないでしょう。
ただ、「ほめられているのに、不満をいうとはなにごとだ」という反応を恐れてスルーしたり、もうあきらめて言わせている、という状況なだけです。

わたしの見知っている範囲でも、美しい容貌に生まれついた人は、「きれい」「美人」なんて言われるのには飽き飽きしていて、「見た目以外のところには価値がないのか」と感じて傷ついていたりします。

しかし、これだけ「女性の容貌をけなすのは失礼だが、ほめるのならOK」という価値観があふれていると、その問題性に気づく人はどうしても少なくなります。

職場での悩み

マスコミに出てくるような特別な人ではなくて、わたしたちの周りにふつうにいる人たちも、この問題を避けて通れません。

新任管理職になった男性。部下には女性が多い。
思ったことをすなおに口に出してしまう性格だと自認しています。
しかし、自分のその性格が地雷なのではないかと、最近恐れています。
「部下の女性に対して、きょうはきれいだね、と言ったりするとセクハラになるとなにかで見た。自分はしょっちゅうそういうことを言っているけどだいじょうぶなのか?」と悩んでいるのです。

たとえば、「足がきれいだね」なんて言うと、不快感を抱く女性は多いでしょう。
身体のパーツをほめるのは、やめておいたほうが無難です。
持ち物のセンスのよさをほめられると、抵抗を感じる人は少ない、など、テクニック的なことをアドバイスすることはできます。

しかし、現実に「きれいだね」と言ってだいじょうぶかどうかは、新任管理職氏と部下の女性の間に、どの程度信頼関係があるかが決め手なので、アドバイスを求められても、そこがわからない以上、なんとも言えません。

すなおに「すてき」「きれい」と思ったのに、それを口に出してはいけないなんて、なんて不自由なんだ、と思う人もいるでしょう。
しかし、一般的に、あまり親しくない人に、容貌のことなど言わないのではないでしょうか。
それは、親しい間柄だけにしておいたほうがよいことなのです。
男女関わらず、仲のよい友人や、頼りにしている先輩から「きょうはきれいだね。なんかいいことでもあった?」と言われて、イヤな気持ちになる人は少ないはずです。

自分がそれほど部下の女性たちに信頼されているかどうかまだわからない、と、新任管理職氏はもっと困ってしまいました。
さて、彼はどうしたらよいのでしょうか。

ほめるのなら仕事をほめる

実は答は簡単です。

「セクハラだ」と思われることがいやなら、見た目のことはほめないほうがいいのです。
すなおに「ぶさいくだな」と思ったとしても(思うのはもちろん自由です)、そんな失礼なことを口に出す人はいないでしょう。
容貌についてなにか言うのは、けなすだけではなく、ほめることも失礼、と思っておけばよいのです。

では、なにを言えばいいのか?
部下をほめることは上司として大事だと教わったのに・・・

こちらはもっと簡単です。

上司と部下の間柄。場所は職場です。
仕事のこと以外にほめることなんてあるのでしょうか?

部下との間によい人間関係を作りたい、と思えば、まずはその部下の仕事ぶりをきちんと見て、認めるところは積極的に認める。
ごくささいなことでもよいので、部下の努力や成長に敏感に気づいて、そこを口に出して認める。
上司としての基本のキです。
そこに集中して取り組めばよいのです。
別に部下が女性だとか男性だとか考える必要もありません。

「女性は容姿をほめられると喜ぶはず」という、男性中心の古い価値観は捨てましょう。
「女性はなにを考えているかわからん」というのも、やはり古い考え方です。
他人の考えなんてそもそもわかるわけもなく、男性同士の同質性を過大に評価して男同士で楽しくやればいい、というのでは、これからの職場は回っていきません。

女性である前に、その人個人を、その人の仕事ぶりを見る、と思えば、なにも難しくありません。

「ここは職場だ。仕事に集中しよう」で、セクハラの大半は防げると言ってよいくらいです。