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自衛隊いじめ自殺訴訟 国の責任認める NHKニュース

23日の判決で東京高等裁判所の鈴木健太裁判長は「男性は亡くなる1か月前から自殺をほのめかす発言をしていた。上司らが十分調査をしていれば、被害の内容や自殺まで考え始めた心身の状況を把握できた」と述べ、自殺を防がなかった自衛隊の責任を認めました。そのうえで「遺族に裁判の重要な証拠となる内部文書を隠蔽した」と指摘して、遺族の訴えを全面的に認め、国などに1審を大幅に上回る7300万円余りの賠償を命じました。

一審のときには隠蔽されていた内部調査の資料が、内部告発によって、二審で明らかになり、自殺した隊員に対する自衛隊(国)の責任が、より重く問われた判決です。

裁判では、「予見可能性」、つまり、自殺という重大な結果になることが、あらかじめ予想できたか、そして、それを防ぐためになんらかの対応がとられたか、という点が追求されます。

裁判で存在が明らかになった海上自衛隊の内部調査の文書は、隊員が自殺した直後に行った護衛艦の乗組員ら190人を対象としたアンケートや聞き取りの結果で、およそ400ページに上ります。
この中には自殺した隊員について「先輩隊員からエアガンで撃たれて困っていると相談を受けたことがある」とか「入浴時に体のアザをたくさん見た」といった証言がありました。
さらに亡くなる2日前の様子については「あいさつをしなくなった。自殺するかもと感じていた」と精神的に追い詰められていることが周囲からもみて取れる状態だったことが証言されています。

これでは、申開きのしようもないでしょう。しかも、重要な証拠を隠蔽していたわけですから、その点もふまえて、賠償額が大幅に増加してしまったわけです。

「予見可能性」といっても、超能力が求められているわけではありません。誰が見ても、「これはおかしい」という点に気づかなかったり、気づいていてもあえて見ないふりをしているような場合に、その責任が問われるのです。

メンタルヘルスやハラスメント防止のセミナーでは、精神疾患の初期には、こういう状態になる、ということをお話しし、自殺防止のためには、どのような対応をとったらよいのか、具体的に説明しています。

管理職や同僚がそのような知識を持っていると、最悪の事態を防ぐために大きな力になりますし、万一、裁判になった場合にも、会社はできるだけのことはやったのだ、と主張することもできます。

それにしても、この裁判の事例は、よくある指導のいきすぎなどというものではなく、明らかないじめで、報告書の内容を知ったご両親のことを思うと、やりきれない気持ちになります。

組織ぐるみで隠蔽工作をしたということは、こういういじめを放置する体質があったということで、その点も大きな問題です。

たくさんいる自衛官の口を塞ぐことを考えるより、膿みを出して、再発防止に務めることが大切なのですが、内部告発をした隊員に懲戒処分を検討するなど、自衛隊の体質は、このような犠牲が出た後でも変わっていないようです。

パワハラの告発があると、会社としては、若くて会社への貢献度がまだ低い被害者を切り捨て、働き盛りで職場の中心になっている加害者をかばう方に向きがちです。

しかし、そのような考え方では、ほんとうの組織防衛には結びつきません。「筋を通す」という態度が、より、傷を深くすることを防ぐのです。