コロナワクチン接種は、すでに4回目に入っています。

4回目接種の対象者は全員ではなく、高齢者や基礎疾患のある人等ですが、3回目については、最初の2回接種が終了した12歳以上の人が対象ですので、職場で働いている人はほぼ全員が対象となっています。

多くの人が接種する中で、ワクチン接種を拒否するという意志が明確で、一度も接種しないという人がいます。
介護や接客等、直接多数の人と接する仕事の従業員がそのような状態では、会社としては困ってしまいます。
強い信念を持っているので、なんとか説得しようとしても、うまくいかないことがほとんどです。

さらに、ここに来て問題になっているのが、初回(1,2回め)接種はしたのだが、3回目のブースター接種をしたがらない従業員です。
反ワクチンというわけではないので、こちらはまた別の問題がありそうです。

ワクチンには社会防衛という意味があります。
多くの人が接種することによって、社会全体から目的の感染症が減り、結果的に持病等でワクチン接種できない人や、感染症で重症化・死亡する可能性が高い人が守られるという考え方です。

自分が受けたくないから受けない! というのは、自分さえよければ他の人はどうでもよいという考えにも見えますので、「最近は、みんなのために、自分はガマンするというのは通じない」と嘆く向きもありますが、そのように考えてしまうと「相手が悪い」で終わりです。
会社として、なにかできることはないのでしょうか。

ワクチン接種は強制できない

会社でワクチン接種を義務付ければよいのではないか、という意見もあると思いますが、会社が決めたらなんでも従業員は従う義務があるかというと、そうではありません。

会社の指揮命令権が及ぶのは、基本的に業務に関連する部分だけです。
ワクチン接種はいくらメリットが大きいといっても、副反応等のデメリットも大きく、体に負担があります。
個人の意志を無視して、会社が強制することはできません。

厚労省でも、次のように呼びかけています。

接種は強制ではなく、あくまでご本人の意思に基づき接種を受けていただくものです。接種を望まない方に接種を強制することはありません。また、受ける方の同意なく、接種が行われることはありません。

職場や周りの方などに接種を強制したり、接種を受けていない人に差別的な扱いをすることのないよう、皆さまにお願いしています。仮にお勤めの会社等で接種を求められても、ご本人が望まない場合には、接種しないことを選択することができます。

新型コロナワクチンの接種を望まない場合、受けなくてもよいですか。|新型コロナワクチンQ&A|厚生労働省

ワクチンの主な効果は重症化予防

ワクチン接種の主な効果は、重症化が防げるということです。
重症化予防効果は、2回めの接種後、時間がたつにつれて減弱していきます。
ですので、3回目の接種(ブースター接種)を行って、効果を維持しようとしています。

2022年初頭の英国のデータで、ブースター接種を受けると、当時流行していたオミクロンに対する死亡抑制効果は(未接種者とくらべて)95%もあることがわかりました。2回だけの接種の場合、6ヶ月後の死亡抑制効果は60%まで低下していましたから、ブースター接種の効果は明らかです。

『免疫学者が語る パンデミックの「終わり」と、これからの世界 』小野 昌弘

ブースター接種を拒否する従業員には、このようなデータに基づいた説明をして、説得するようにしましょう。

「みんなが受けているから」「受けないと会社としては困るから協力してほしい」というだけではなくて、本人にも大きなメリットがあることを強調するのがよいでしょう。

もちろん、ワクチン接種で重症化する人が減ることで、医療への負担も減り、医療逼迫や医療崩壊ということも防げますから、社会防衛という観点からも、大きな意味があります。

しかし、ワクチンというと、他の人からうつされないようにする感染予防効果が重大ではないか、と思われるかもしれません。
確かに、通常の予防接種は「感染しない」ことが目的です。

コロナのワクチンにも感染予防効果はありますが、残念ながらワクチン接種をしたあとでも、感染する可能性はあります。
上記の書籍からもう一度引用しましょう。

ただ残念ながら、この感染予防効果は、重症化予防効果よりもはやく減弱してしまいます。 ですから、ワクチンを2回打っても、半年もすると、たとえばデルタに対する感染予防効果は 8割ほどに減ってしまいます。 免疫を回避する変異が多いオミクロンの場合、2回目の接種を済ませて3カ月ほどで、感染予防効果は3割程度まで落ちてしまいます。こうなると、感染予 効果もあまり期待できません。

免疫学者が語る パンデミックの「終わり」と、これからの世界 』小野 昌弘

とはいえ、まったくのノーガードよりは効果はあるのですから、少しでも感染予防をしたい人は、ワクチン接種を選ぶでしょう。
高齢の親御さんと同居している人、身近に免疫機能が低下している人がいる人、さらに仕事で多くの人と接する人は、ワクチン接種するに越したことはありません。

接種で生じる不利益をつぶしておく

発熱や頭痛等のワクチンの副反応は、比較的若い人が重くなりやすいと言われています。

1,2回めの接種のときの副反応がひどく、数日寝込んでしまった人は、「もううちたくない」という気持ちになっているかもしれません。

体調が悪くなるのがイヤなのはもちろんあるでしょうが、年次有給休暇がなかったり、使い切ってしまっている場合、欠勤になってしまうことで収入が減ってしまうという問題があります。

数日休んでしまうと、同僚に迷惑がかかるから、とちゅうちょしている場合もあります。

お子さんが小さくて、ほかに見てくれる人がいない場合、寝込んでいる間の子供の世話をだれがするのか、という問題があるかもしれません。
家族の介護をひとりでしている場合も、同じ問題が出てきます。

副反応の問題以外にも、会社の勧めでワクチン接種をするのに、接種のために外出する時間、給与が引かれてしまうのはおかしいと感じているのかもしれません。
健康診断を就業時間中に行い、その分の給与を支払っている会社が大半なので、感覚的にワクチン接種でノーワークノーペイは受け入れづらいということがあります。

たんに「ワクチン接種したくない」というだけではなく、ほんとうはどこに問題があるのか、従業員とよく話し合う必要があります。

すでに、ワクチン接種のための遅刻・早退・外出は不就労でも給与は支給する、ワクチンの副反応で休んだ場合は、特別休暇を適用する等の対策を行っているという話はよく聞きます。

まだそのような対策を行っていないのであれば、制度を作ることを考えてもよいでしょう。
育児や介護の問題にしても、ヘルパーさんの費用を会社がある程度補助することを検討してもいいかもしれません。

費用がかかることではありますが、コロナ感染者が発生したことでかかる費用を考えれば、悪くない投資でしょう。
もちろん、先に書いたように、ワクチン接種しても感染を100%予防することはできませんが、会社としてやるだけのことをやったと言えるようにしておくことが大切です。

とくに「反ワクチン」ではないのに、ワクチン接種を拒否する従業員には、まずていねいに話を聞き、不利益に対して会社ができることがあればできるだけのことをします、という姿勢で対応しましょう。

ワクチン接種に限らず、会社が常にそのような姿勢であれば、会社の説得に応じてくれる可能性も高くなります。
日頃からの信頼関係の構築がものをいうのは、こういうときです。