提案や要望を言わない人たち
ハラスメント相談を中心に、会社に雇われている方たちからご相談を受けるようになって、10年以上たちます。
その中で気づいたことは、「困っていることや、こうしてほしいという要望があっても、上司に言わない人がほとんどだ」ということです。
といっても、この観察結果は、「社外の相談窓口に相談する人」というフィルタがかかっていますので、社内で相談して解決できる人はわたくしのところには来ないのかもしれません。
その点をさしひいても、印象的なことがあります。
「課長にそのこと、話してみました?」とお尋ねすると、「え?」と虚をつかれたような反応が返ってくることが多いのです。
そもそも、「自分の困り事や要望を上司(会社)に言うという選択肢が最初からない」という感じです。
そうするとどうなるかというと、我慢するだけ我慢して、我慢できなくなると黙って辞めてしまう、ということですね。
会社のほうでは、なかなかどうして辞めたのかわかりませんし、かりにわかったとしても「そんなことなら、もう少し早く言ってくれれば、対策を考えたのに」となることが多いでしょう。
これは、お互いにとって、不幸な状況です。
心理的安全性が高まると困る人たち
ここのところ、コミュニケーション研修等で「心理的安全性」をとりあげることが多いのですが、上に書いたようなことは、まさに「心理的安全性が低い」状況です。
心理的安全性とは
職場の中で、バカにされたり無視されたり、人間関係が壊れたりする心配なく、自分の意見や提案を言える状態を「心理的安全性が高い」と言います。
「こんなことを言ったら、まずいことになるんじゃないか」という心配以前に、「意見や要望を言うことを考えもしない」という状況なわけですから、まさに究極ですね。
心理的安全性を高めるには、という課題を考えるときは、通常、リーダーの行動や会社ぐるみのしくみを問題にします。
「どんどん意見を言うべし」ではなく、「どうやったら職場の人全員が、意見を言えるような土壌が作れるか」ということを考えるのです。
心理的安全性が低いと、いろいろ困ったことがおき、最初に書いたようなこともそのひとつです。
ところが、リーダー層の中には、今の状態であまり困っていないという人もいます。
職場の心理的安全性が高いと、上意下達ではなく、指示をしても部下から異論がどんどん出てきます。
部下から意見があまり出ないいままでのほうが、ずっと「安全」だし、「安心」だ。
研修で「リーダーは心理的安全性を高めるように行動しましょう」と言われたけど、自分はやりたいと思わない。
ということで、消極的になってしまう人も当然出てきます。
部下の立場から心理的安全性を高めるには
会社や管理職(リーダー層)はあまり乗り気じゃないけど、自分は心理的安全性の高い職場を作りたい。
こう思ったとき、どうすればいいのでしょうか。
まずは出世して、リーダーとして問題に取り組めるまで待ちますか?
もちろん、そんな先のことではなく、今できることがあります。
同僚を承認し、話をしっかり聴く
まずは、あなた自身が、周りの人が安心して話せるような態度をとりましょう。
基本的には、相手を承認し、話をよく聴きます。
承認というと難しいようですが、いつも名前を呼んで、にこやかに挨拶すること、「先週末はどこか行かれたんですか?」等、相手のことに興味を持っていると示すことも、十分承認になります。
そのほか、その人が仕事でがんばっているところを見たら、たとえば「◯◯さんが、ていねいに片付けてくれるので、とても助かります」と言ってみましょう。
とくに自分からなにも言わなくても、相手の話を、うなづき、あいづちをうちながら熱心に聴くというのが、最も効果的です。
だれかが熱心に自分の話を聞いてくれる、ということで、意見や提案を言おうとしている人を励ますことができます。
人の話をちゃんと聴いている人、意見や提案を出している人を見たら、ほめたり励ましたりする
さらに、言葉に出して
「うなづいて聞いてもらうと、話しやすくて助かります」
「積極的に提案していていいですね」
「◯◯さんのように、率直な意見を言ってくれると、会議が活性化しますね」
等と、直接的にほめたり励ましたりすると、なおいいですね。
リーダーの言葉ではなくても、同僚同士で認め合い、励まし合うことも、大きな力になります。
そのような行動が、ほかの人にも広まっていったらしめたものです。
そのためには、行動で示すだけでなく、積極的に仲間づくりをしてみましょう。
職場でたびたび「心理的安全性」を話題に出したり、小規模な学習会を提案したりする
「心理的安全性」をテーマにした研修を受けたのであれば、無理なく、同じ部署の人にそのことを話題にすることができます。
そうではなくても、「最近、こんな本を読んだんだけど」等と、雑談の中で話すと、興味をもってもらえるかもしれません。
自分の好きなアイドル等「推し」を周りに勧めて、ファンを増やそうとすることをよく「布教」と言ったりしますが、まさに「心理的安全性」を「布教」しているような感じです。
「またその話?」と思われないためには、小規模な学習会を提案する等、しくみとして職場のみなが取り組むようにできる方法を考えてみましょう。
「上司になにを言っても聞く耳をもってくれない」「提案したりすると、バカにされるので、積極的に意見を言えない」という不満があるとしたら、解決すべきは、当然上司や会社です。
しかし、まず不満があることを伝える、そして、そのような不満を解消する行動を自分自身でとってみる、というのはいかがでしょうか。
「いやなことがあっても、仕事だからがまんする」「職場の改善はだれかがやってくれる」という思考から、一歩抜け出してみましょう。