ビジネスパーソンにとって、出張は避けて通れない仕事の一部です。
しかし、出張に伴う移動時間が労働時間として認められるかどうかは、多くの人にとって疑問が残る部分でしょう。
特に、出張前の休日を利用して移動する場合、その時間は労働時間として扱われるのでしょうか?

1. 原則:休日の移動時間は労働時間に該当しない

まず、基本的な原則を押さえておきましょう。
出張先への移動を出張前の休日に行った場合、その移動に要した時間は原則として労働時間には該当しません。
例えば、東京から大阪への出張で、月曜日から仕事を開始する予定の社員が、日曜日に新幹線で移動したとします。
この日曜日の移動時間は、通常、労働時間としてカウントされません。

2. 例外:労働時間と認められるケース

しかし、すべての休日移動が労働時間外とされるわけではありません。
以下のような場合は、休日の移動時間でも労働時間として認められる可能性があります。

a) 取引先への対応
例:移動中に上司から指示があり、新幹線の車内で取引先とのメールのやり取りを行った場合

b) 物品の運搬・監視
例:重要な契約書や機密文書を携帯し、常に監視する必要がある場合

c) その他、労働契約上の役務
例:移動中に会議資料の作成を指示された場合

これらのケースでは、使用者(会社)からの明示的な指示や黙示的な了解のもと、労働契約上の役務を提供していると判断されるため、労働時間として扱われます。

3. 労働時間の定義と判断基準

ここで、そもそも「労働時間」とは何かを確認しておきましょう。

労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間を指します。
重要なのは、この判断が労働契約や就業規則の規定だけでなく、客観的な事実に基づいて行われるという点です。

具体的には、以下のような状況が労働時間に該当すると判断される可能性が高いでしょう。

  • 移動中も常に連絡が取れる状態を要求されている
  • 移動時間中に業務関連の資料を読むよう指示されている

4. 労働時間に該当しないケース

一方で、以下のような状況では、移動時間が労働時間に該当しないと判断される可能性が高いです。

  • 移動中の時間を自由に使える(睡眠、食事、読書など)
  • 業務に関する具体的な指示がない

例えば、日曜日に新幹線で移動する際、車内で好きな本を読んだり、映画を観たり、昼寝をしたりと自由に時間を過ごせる場合は、労働時間には該当しないでしょう。

5. 判断の難しいケース

しかし、現実には判断が難しいケースも多々あります。
例えば、次のような場合です。

  • 移動中にスマートフォンで業務メールをチェックする習慣がある場合
  • 同僚と一緒に移動し、移動中に業務に関する打合せをする場合
  • 移動中に自主的に業務関連の資料を読む場合

これらのケースでは、状況に応じて個別に判断が必要となるでしょう。

6. まとめと注意点

出張前の休日移動が労働時間に該当するかどうかは、基本的には該当しないものの、状況によっては労働時間として認められる可能性があります。
判断の鍵となるのは、その時間が使用者の指揮命令下にあるか、労働者が自由に時間を利用できるかという点です。

最後に、この問題で判断に迷う場合は、社会保険労務士等、専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
専門家に相談し、出張に関する明確なガイドラインを設けることで、従業員が「会社のやり方はひどい」と不満を持つことを予防できます。

会社の都合だけでなく従業員の意見も聞き、働きやすい環境を整えることが業績向上へのカギです。
経営者や人事労務担当者は、ともすれば「少しでも会社の負担を減らす」ことだけに神経を使いがちですが、わずかな経費を惜しんで、従業員のモチベーションを削がないようにバランスを考えましょう。