2026年10月、改正男女雇用機会均等法の施行により、「求職者等セクシュアルハラスメント」防止措置がすべての企業に義務付けられます。

これまでセクハラ防止措置義務の対象は自社の労働者に限られていましたが、今後は面接に来た応募者なども対象に含まれます。「まだ社員ではないから関係ない」という認識は、10月以降は通用しなくなります。

もう一つ注意したいのは「就活セクハラ」という呼び方です。この言葉から新卒一括採用やOB・OG訪問の場面を連想する方が多く、中途採用が中心の中小企業では「うちには関係ない」と受け止められがちです。しかし、法律上の「求職者等」に新卒・中途の区別はありません。

法律の定義自体は、新卒採用やOB・OG訪問の場面も含む幅広いものです。ただし、中小企業ではOB・OG訪問という慣行自体があまりなく、実際に問題になりやすいのは、面接そのものでの不適切な質問と、面接前後にSNS等で求職者に個人的に接触する場面です。本稿では、この二つに絞って実務対応を考えていきます。

何が義務化されるのか

改正の柱は、事業主が「求職者等」に対するセクシュアルハラスメントの防止措置を講じることの義務化です。
企業に求められる対応は、方針の明確化と周知、相談体制の整備、事後の適切な対応という点で、既存のパワハラ・セクハラ防止措置義務とほぼ同じ枠組みです。

直接的な罰則は設けられていませんが、労働局による助言・指導・是正勧告の対象となり、勧告に従わず悪質と判断された場合は企業名が公表されるリスクもあります。
採用活動という会社の「顔」の部分での公表リスクは、通常のハラスメント事案以上に採用ブランドへの打撃が大きくなりかねません。

なお、同じ2026年10月1日には、労働施策総合推進法に基づくカスタマーハラスメント対策の義務化も施行されます。
採用活動も顧客対応も、これまで「社外対応」として措置義務の外に置かれてきた領域でしたが、今回まとめて義務化の対象になりました。

中途採用で問題になりやすい二つの場面

中小企業の中途採用では、新卒採用にありがちなOB・OG訪問やインターンといった場面はほとんど存在しません。
その代わりに問題が起きやすいのは、大きく二つの場面です。

一つは面接そのものでの質問内容、もう一つは面接の前後にSNSやダイレクトメッセージで求職者へ個人的に接触する場面です。
中途採用は転職サイトやスカウト媒体、リファラル(社員紹介)経由での応募が多く、応募から面接までの間に、採用担当者や紹介した社員が求職者と個人的にやり取りをするケースが珍しくありません。

「まずは気軽に話しましょう」というカジュアル面談の場では、面接よりも距離感が近くなりがちで、プライベートな話題に踏み込みやすい空気が生まれます。
また、スカウト型の採用媒体やSNS経由でアプローチする際、業務連絡のつもりで交換した個人アカウントが、そのまま業務外の個人的な連絡に使われてしまうこともあります。

「うちは人数が少ないから大丈夫」ではなく、むしろ採用担当者が一人で応募から面接、内定連絡まで一貫して対応する体制の企業ほど、こうした場面が個人の裁量に委ねられやすく、点検の優先度は高いと考えるべきです。

落とし穴は「相談窓口」の対象範囲

実務上の落とし穴は、相談窓口の設計にあります。

多くの企業の内部相談窓口は就業規則を根拠に設計されており、想定している相談者は「自社の労働者」です。求職者は労働者ではないため、就業規則上の相談窓口の対象範囲に、そもそも入っていないケースが実際にあります。

求職者からハラスメントの訴えが寄せられた場合、誰が、どのような立場で、どの規程に基づいて受け止めるのか。ここが曖昧なままの企業は少なくありません。

人事部が直接窓口になる設計にすると、選考への悪影響を懸念して求職者側が声を上げにくくなるという副作用も考えられます。
匿名性と、選考プロセスから独立した立場性をどう担保するかが、既存の体制の延長線上では対応しきれない部分です。
窓口担当者が選考の合否を左右する立場と重なっている場合、いくら「相談してください」と周知しても、実際には機能しません。

社内に適任者を置きにくい場合は、外部の相談窓口を活用する選択肢も含め、今のうちに窓口の設計そのものを点検しておくべきです。

中途採用は新卒採用のように特定の時期に集中するものではなく、通年で発生します。
「繁忙期が過ぎてから見直す」という発想ではなく、施行日である10月までに一度は体制を整えておく必要があります。

面接官・採用担当者への周知の難しさ

もう一つの実務課題は、現場への周知です。

厚生労働省が定める「公正な採用選考の基本」そのものを読んだことがない中小企業の採用担当者が、実際には少なくありません。

この基本原則は、本籍・出生地、家族構成、思想信条、恋愛・結婚の予定など、仕事の適性・能力とは関係のない事項を採用選考の材料にしないことを求めるもので、就活セクハラの多くもこの原則から外れた質問がきっかけで起きています。

「結婚の予定は」「恋人はいるか」といった個別のNG質問例を暗記させる前に、「仕事に関係のないことは聞かない」という一点だけを徹底させる方が、現場には定着しやすいと感じます。

特に、経営者自身や現場の管理職が面接官を兼ねる中小企業では、そもそもこの基本原則自体を知らないまま面接に出ているケースが多く、悪気なく踏み込んだ質問をしてしまうリスクが高まります。

面接という業務の場面と並んで盲点になりやすいのが、面接前後のSNSでのやり取りです。

「本音を聞き出すため」「距離を縮めるため」の個人的な連絡のつもりが、求職者にとっては選考への影響を意識せざるを得ない圧力になっていた、というすれ違いはよく起きます。

効果的なのは、禁止事項をただ並べることではなく、「なぜその一言や一通の連絡が求職者を萎縮させ、時に企業の評判を左右するのか」を具体的な場面とともに伝えることです。
時間をかけた研修である必要はなく、面接を担当する社員だけを集めた短い説明機会でも、腹落ちの度合いは大きく変わります。

10月施行までの優先事項は

10月の施行までに、企業が優先して取り組むべきことは大きく三つです。

第一に、面接・SNS等での個人的な連絡など、求職者と接触するすべての場面を一度洗い出すこと。

第二に、既存の相談窓口が求職者からの申し出にきちんと対応できる設計になっているかを点検すること。

第三に、面接官や採用担当者に対して、形だけで終わらない周知の機会を設けることです。

制度への対応は待ったなしですが、形式的なルール整備で終わらせず、実際に機能する体制を作ることこそが、結果として採用ブランドを守ることにつながります。

制度への対応は待ったなしです。

形式的なルール整備で終わらせず、実際に機能する体制を作ることが、結果として採用ブランドを守ることにつながります。
まずは、自社の相談窓口が求職者からの申し出を受け止められる設計になっているか、そこから確認してみてください。