睡眠不足が及ぼす害
ハラスメント防止研修の中に、いつも「ストレスコントロール(セルフケア)」というスライドを入れています。
要するに、自分のコンディションを整えて無駄にイライラしないようにしましょう、という話です。
とくに睡眠が重要で、「1日7時間以上の睡眠をとるようにしてください」と言い、「だいたい7時間以上寝ている方?」と手を挙げてもらうと、管理職対象だと1割か2割という会場がほとんどです。
日本人の平均睡眠時間は7時間12分ですが、男女とも40代50代は7時間をきっているという調査結果にも合致しています。
睡眠不足だと次のようなところに悪影響が出てくることが知られています。
- 血圧、血糖値への悪影響による生活習慣病、死亡リスクの増加
- 認知症
- 肌荒れ
- 集中力の欠如
- 思考力の低下
- 問題解決能力の低下
- 想像力の欠如
- イライラ
- 感情爆発(キレる)
あなたはショートスリーパー?
管理職層の大多数が7時間未満の睡眠時間だということですが、睡眠不足に悩んでいる人は案外少なく、「短時間睡眠で足りている」と感じている人が多いようです。
それには、このような人間の生理がからんでいます。
睡眠不足状態(4時間/日、6時間/日)を継続すると、主観的眠気は日毎に悪化するが、4時間睡眠を5-7日間続けると1日断眠した時と同レベルの眠気でプラトーに達する(次左図、薄いグレーの部分)。すなわち、被験者は睡眠不足の悪化を殆ど認識していない状況である。
長時間労働の医師への健康確保措置に関するマニュアル
人間は睡眠不足に慣れてしまい、眠気を感じなくなるのです。
しかし、反応遅延回数を見ると、眠気を感じていなくても、睡眠不足の日が続くと、刺激に対してまともに反応できなくなることがわかります。
4時間睡眠が2週間続くと、2日徹夜した人と同じレベルになってしまうのです。
これは反応遅延(作業能率)を見たグラフですが、体調不良、イライラ等、睡眠不足が体にさまざまな影響を及ぼしていても、主観的には「眠くないので睡眠は足りている」と考えている人が多いということになります。
睡眠が6時間未満でも、とくに健康や日常生活に影響がない人のことを「ショートスリーパー」と呼びます。
わたしは「ショートスリーパーだからだいじょうぶ」ということですね。
さまざまな調査がありますが、共通したところを見ると、ショートスリーパーは多くても人口の7~8%、中には 0.004%という結論になっている論文もあります。
ショートスリーパーは特有の遺伝子を持っており、0.004%という数字は、その遺伝子を持っている人の割合ということだそうです。
あなた自身がショートスリーパーかどうかはわかりませんが、この数字を見ると、あてはまらない可能性のほうが高いでしょう。
つまり、現在6時間程度の睡眠しかとっていない人が、7時間以上に睡眠時間を増やして、以前より気分が爽快だったり、イライラしなかったり、ミスが減ったりすれば、その人はショートスリーパーではなかったということになります。
そうなると、6時間未満の睡眠が、気づかない間に健康に悪影響を及ぼしている可能性大ですね。
健康への影響だけでなく、作業効率や人間関係への悪影響も大きいでしょう。
ミスが多かったり、ちょっとしたことでイライラしたり、怒りを爆発させたり、常に憂鬱で悲観的な気分なのは、睡眠時間をとれば解決するかもしれないのです。
「7時間睡眠」を勧めるのはなぜか
とはいっても、最適な睡眠時間は個人差が大きく、厚生労働省では6時間から9時間程度としています。
6時間でもいいはずなのに、「最低7時間睡眠をとってください」とお勧めするのはなぜでしょうか。
これは、「多くの人が7時間未満の睡眠しかとっていない」という前提のもと、睡眠の重要性を認識し、生活習慣を改善することに結びつけてほしいからです。
「あなたの睡眠は足りていません!」と数字ではっきり示されたほうが、切実に「なんとかしよう」と思ってもらえるから、ということですね。
上の右側のグラフ「睡眠制限の日数」を見てもらうと、6時間睡眠でも反応遅延回数が日を追うごとに多くなっていることがわかります。
6時間睡眠では不足な人が、やはり多いのです。
現役世代では、労働時間の長さから睡眠不足になる傾向が大きく、「寝すぎ」、つまり長時間睡眠することの害は、あまり考えなくてもよいから、ということもあります。
また、睡眠時間にこだわるよりも、質のよい睡眠をとることが大事、という考え方もありますが、最初にある程度の時間を睡眠にあててもらうことが、質のよい睡眠に近づく早道ではないかと考えています。
まずは量を確保して、それが足りてから質を考えればよいということですね。
まずは「7時間睡眠」!
最近どうもイライラしやすい、と感じている方には、強くおすすめします。