ハラスメント事案が起こり、行為者(加害者)側も自分の非を認めた場合、謝罪をどうするかという問題が起こります。
いままで扱った事案の中では、被害者側が「謝罪してほしい」と希望するより、行為者が「謝りたい」と言ったり、会社側が「謝らせたい」という事例がけっこう多いな、という感触があります。
しかし、被害者が謝罪を望む場合以外は、謝る、謝らせるというのは、おすすめしていません。
「やめたほうがいいですよ」と止める場合もあります。
謝罪で問題解決に結びつけるのはあんがい難しく、かえって被害者の気持ちがこじれてしまうことがあるからです。
ここでは、ハラスメントの場合だけでなく、謝罪したのにかえって相手が怒ってしまったり、関係がぎくしゃくしてしまう5つのパターンをご紹介しましょう。
1.自分が一方的に悪いわけではない
自分にも非があるが、一方的に悪いわけではない、という気持ちがある場合、弁解するつもりが相手を責めるような言葉をいってしまいがちです。
「わたしにも悪いところがあった。でも、君も…」という感じですね。
謝ったはずなのに相手の悪いところを改めてあげつらう結果になり、相手は謝罪されたというよりも、責められたと受け取り、謝ったはずなのに「謝ったつもり」だけで、相手には通じないということになってしまいます。
2.相手が気を悪くしたようだから、どこが悪かったのかよくわからないが、とりあえず謝る
「ごめんごめん! なんかよくわからないけど、悪かった!」
言葉は違うかもしれませんが、こんな謝り方をしていませんか?
これは、相手の怒りの感情は認めていて、それをほぐそうとしています。
一見、相手をだいじにしているようにも見えます。
しかし、言われた側からすると、「軽視されている」「子ども扱いされている」「反省する気がない」と受け止めてしまいます。
どこが悪いのかわからないのでは、今後その行動を改めることはできませんね。
典型的な「口先だけ」の謝り方です。
3.人間として、悪いことをしたら謝るのが当然
この考え方は悪いわけではありませんが、フォーカスが「相手の気持ち」ではなく、「人間として正しい自分」のほうにあたっています。
謝罪してすっきりしたい、と心の中で思っている人にありがちな態度でもあります。
あなたが人間として正しいか正しくないかは、ここでは重要ではありません。
「人間として、悪いことをしたら謝るのが当然」ではなく、「悪いことをしたら、その行動を改めるのが当然」というのが、相手に対する誠実な態度ですね。
4.自分の行動を改めるのではなく、相手の機嫌をとろうとする
だれかを怒らせたときに、「埋め合わせに○○しましょう」と提案したり、なにか相手の好きそうなものを買ってくるという行動を取る人がいます。
これ自体はいいのですが、順序があります。
相手が不当だと感じ、怒っている行動についてはスルーして、「怒っている相手をなんとかしたい」という自分の感情を先にしてしまっては、謝罪が謝罪になりません。
5.謝ったんだから、相手は当然許すべきだ
4のように機嫌をとろうとするのは、謝罪の方法としてはあまりよくないのですが、相手の行動にフォーカスをあてたあげく、もっと不当な行為を繰り返してしまうのが、このパターンです。
許してもらうために、謝る。
このような意識が強いと、もし相手が快く許さない場合、「謝ったのに、それを許さない相手が悪い」という転倒したことになりがちです。
自分のほうが被害者としてふるまったりします。
とくに、自分のほうが立場が上であると考えていると「わざわざ下手に出て謝ってやったのに、それを許さないとは、ひどい相手だ」という感情になります。
はっきり言葉にすると実に鼻持ちならないのですが、これもけっこうありがちです。
当然相手はそれを感じ取って、「言葉では謝罪されているが、ぜんぜん謝ってもらった気にならない」ということになってしまいます。
では、どのように謝罪したらよいのか
だめなパターンを5つ見てみましたが、では、謝罪とはどのようにしたらよいのでしょうか。
言葉としてはいろいろでしょうが、前提はふたつです。
ひとつめは、相手の怒りの感情は正当であり、尊重されるべきものだということ。つまり、相手を人間として尊重していること です。
ふたつめは、自分の行動が間違っていたと認め、今後は繰り返さないという決意です。
「わたしはそんなに悪くない」「わたしだけが悪いのではない」「謝ってすっきりしたい」「謝って許してほしい」、これは人間として当然の感情ですが、それを前面に出すと、相手にどう響くのか、立ち止まって考えてみましょう。