
この4月からの高齢者雇用の変化
2025年4月から、企業には「希望する社員全員に65歳までの雇用を確保すること」が法的に義務付けられました。これは高年齢者雇用安定法の改正によるもので、少子高齢化が進む中で高齢者の就業機会を確保し、社会全体の活力を維持することを目的としています。
この改正のポイントは、「定年を65歳にしなければならない」という義務ではなく、希望者全員が65歳まで働ける措置を企業が必ず講じなければならないという点です。具体的には、以下のいずれかの措置を取る必要があります。
- 定年制の廃止
- 定年年齢の65歳までの引き上げ
- 希望者全員の65歳までの継続雇用制度(再雇用制度など)の導入
これまで(2025年3月31日まで)は「経過措置」として、労使協定により継続雇用の対象者を限定できる仕組みが認められていましたが、この経過措置は終了しました。今後は、企業が一方的に基準を設けて対象外とすることは認められず、希望する全ての社員が65歳まで働けるようにしなければなりません。
なお、定年を60歳未満に設定することは既に禁止されています。65歳までの雇用確保措置が未整備の場合、就業規則の見直しや制度の導入が必要です。
世代間のディスコミュニケーションへの対応策
私が会社の経営者や管理職の方たちとお話すると、最近よく耳にするのが「世代間のコミュニケーションが難しい」「若手とベテランの間に壁がある」という声です。
実際、20代の新入社員と60代のベテラン社員が同じ会議室で向き合っている光景は、今や珍しくありません。でも、その中で「伝わらない」「わかってもらえない」と感じる瞬間が増えているのも事実です。
今日は、65歳までの雇用が当たり前になる時代に、どうすれば年齢の離れた社員同士がうまく意思疎通できるのか、一緒に考えてみたいと思います。
価値観の違いは「当たり前」から始まる
ある会社でのこと。
新入社員のAさんは、会議で「先輩たちの話が専門用語ばかりで、何を言っているのか分からない」と困っていました。
一方、ベテランのBさんは「最近の若い子は、わからないことがあっても自分から聞いてこない。どんどん聞いてくれればいくらでも教えるのに」と少し不満げです。
この二人、実はお互いを責めたいわけではありません。
Aさんは「こんなことを聞いたら怒られるかも」と心配しているし、「Bさんはいつも忙しそうで、いつ話しかけたらいいのかわからない」と感じているのです。
一方、Bさんは「自分たちの頃は、分からなければ自分から動くのが当たり前だった」と思っているだけです。そして「あまりあれこれ言うと、パワハラと言われてしまうかも」と思っていて、不満を口に出せません。
どちらも「自分の当たり前」を基準にしていて、しかも相手の考えを聞くことをしようとしないので、すれ違いが生まれてしまうのです。
「伝え方」「受け止め方」を少し変えてみる
ある日、管理職研修の休憩時間中の雑談で、ベテラン社員のCさんが「最近の若い人は、指示を細かく出さないと動けない」とぼやいていました。
そこで、「Cさんは、どんなふうに指示を出していますか?」と尋ねると、「昔からのやり方で、簡単に『あれ、やっといて』と頼んでいる」とのこと。
そこで私は、「もしかしたら、若い人は“あれ”が何かわからないのかもしれません。具体的に説明してみたらどうでしょう?」と提案しました。
Cさんは半信半疑ながらも、次の日から「○○の資料を、今週中にまとめてほしい」とはっきり伝えるようにしたそうです。また、自分の部下たちに「分からないことがあれば、遠慮せずに聞いていいよ」と声かけもされました。
すると、若手社員から「分かりやすくなった」「質問していいか迷っていたが、安心して聞けるようになった」と感謝されたと後日ご報告をいただきました。
雑談が生む、安心感と信頼関係
私が強くお勧めしたいのは、「雑談」の力です。
仕事の話だけでなく、「最近どう?」「週末は何してた?」といった何気ない会話が、世代を超えて人と人をつなげてくれます。
ある会社では、毎朝の朝礼のあとに5分だけ「雑談タイム」を設けました。
最初はぎこちなかったものの、次第に「孫が生まれた」「最近ハマっている趣味」など、年齢を問わず話題が広がりました。
この雑談をきっかけに、仕事の相談もしやすくなり、チームの雰囲気が明るくなったのです。
コミュニケーションは、話すことと同じくらい「聴くこと」が大切です。
相手の話を最後まで聴く、評価せずに受け止める――これだけで、相手は「自分を認めてもらえた」と感じます。
また、自分の考えや気持ちも、遠慮しすぎずに伝えてみてください。
「こうしてほしい」「こう思っている」と素直に言うことで、相手も本音を話しやすくなります。
変化は、あなたの一歩から
「世代が違うから、どうせ分かり合えない」とあきらめる必要はありません。
むしろ、違うからこそ新しい発見や学びがあるのです。
私が見てきた職場で、世代を超えてうまくいっているところには、共通点があります。
それは、「まず自分から声をかけてみる」「相手の話を聴いてみる」という、ほんの小さな一歩を大切にしていることです。
65歳まで働く時代。
これからの職場は、年齢も価値観も多様な人たちが集まる場所になります。
だからこそ、「伝わる」「伝える」「聴く」――この3つのコミュニケーションを、みんなで少しずつ磨いていきませんか。
その第一歩は、あなたの「おはよう」「元気?」という、たった一言の声かけかもしれません。