コミュニケーションがうまくいかないとパワハラにつながりやすい
自分の言っていることが、うまく相手に伝わっていない、と感じるとき、たいていの人は「自分の伝え方に問題があるのかも」と考えます。
繰り返したり、言い方を変えたり、という工夫をするのならいいのですが、「やさしく言ったんじゃだめなんだ」と思って、感情的になったり、大きな声を出してしまう人もいます。
一部の人は「相手の聞き方がよくない」と考えます。
「ちゃんと聞いてない」「覚えようという気がない」「自分を軽視している」…そう思うと、「ちゃんと聞きなさい」と注意したり、場合によっては不機嫌になったり、どなったりします。
どちらも、度が過ぎるとパワハラになってしまいます。
このようなパターンが多いので、パワハラ防止研修では、必ずコミュニケーションがうまくいくやり方について、お話したり、グループワークをやってもらったりしています。
伝え方を変えるだけが方法ではない
コミュニケーションがうまくいくやり方、つまり、コミュニケーション・スキルと言われているものの中で、「伝え方」については、代表的にはアサーション[1]アサーティブ、アサーティブネス、アサーティブ・コミュニケーションともいう。があります。
アサーションとは、「相手も自分も大切にしながら行う自己表現」のことです。
トレーニングしようと思うとかなり時間がかかるものですが、パワハラ防止研修の中では、入門的な内容をロールプレイ等を通じてお伝えしています。
これはこれで、職場のコミュニケーションをよくするために、たいへん有用なものなのですが、実は、「自分の言っていることがうまく伝わっていない」場合、原因は「伝え方がよくない」というだけではありません。
それでは、「相手の聞き方がよくない」ことが、問題なのでしょうか。
もちろん、それが合っているときもありますし、管理職以外の一般層へのコミュニケーション研修として、「話の聞き方」「ホウレンソウのやり方」等を行うのもよいでしょう。
しかし、「パワハラ防止」という切り口で見た場合、受け取る側の責任にしてしまうと、パワハラを起こしている側の責任があいまいになり、被害者非難になりかねません。
実は、「言っていることがうまく伝わっていない」という場合、「伝え方」「相手の受け取り方」以外に、大きな問題があることが多いのです。
それは「話の聴き方」です。
「話が伝わらない」と思っている、相手の話を、どれだけちゃんと聴いているか、ということが、伝わり方にも大きく影響するのです。
相手の話をしっかり聴くのは、相手の存在を尊重すること
コミュニケーションがうまくいかない場合の根本的な問題として、「相手を人間として尊重しているか」ということがあります。
そもそも、相手(部下や後輩)を尊重するべきだ、と思っていない場合は、そこから考えを改めてもらう必要があります。
しかし、たいていの上司や先輩は、頭では「相手を尊重しなければならない」ということがわかっています。
「どうやったら尊重できるか」ということが、わかっていないのです。
相手を尊重する方法として、中心になるのが、「相手の話をよく聴く」ことです。
「聞く」ではなく「聴く」という漢字を使っていますが、これは単に「事柄を聞く」のではなく、「相手の感情に気づき、その感情に配慮しながら聞く」という意味だからです。
コミュニケーション・スキルとしては「傾聴」「アクティブ・リスニング」ということになります。
パワハラ防止研修では、この「傾聴」の練習をまず行うようおすすめしています。
コミュニケーションの根本、相手の存在の尊重をかたちに表すことで、相手との人間関係がよくなります。
すべてのコミュニケーションの基礎は「よく聴くこと」です。
また、アサーションを学ぶ場合も、一方通行の伝え方ではなく、相手と対話する方法を学ぶので、その中に当然傾聴の技法も入ってきます。
そのようなことからも、まず「聴き方」を学び、そして「伝え方」を学ぶほうが、話の流れとしてスムースでしょう。
事業所ごとの事情をよくお伺いし、とりあえず「伝え方」にフォーカスしたほうがいいかも、ということで、アサーションを先に研修の中で取り扱うこともありますが、標準的には「よい聴き方(傾聴)」を学び、次に「よい伝え方(アサーション)」を学んだほうがよいでしょう。
パワハラ防止研修は複数回開催の見通しの上で内容を決める
パワハラ防止法(労働施策総合推進法)で、事業所に求められているパワハラ防止の措置義務の中で、パワハラ防止研修を外すことはできません。
パワハラ防止研修は、毎年、または、それに近い頻度で、何度も繰り返すことになります。
そうなると、第1回目の開催のときから、今後3年~5年の間、どのような内容で開催するかという、おおまかな見通しをもっておく必要があります。
まず「聴き方」、次に「伝え方」という順番が、基本ということを頭に入れておくと、スムースに内容を決定することができるでしょう。
Footnotes
↑1 | アサーティブ、アサーティブネス、アサーティブ・コミュニケーションともいう。 |
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