兼業禁止の理由

労働法の研修中に、こんな質問が出ました。
「有給をとって、別の会社でアルバイトしてもいいんでしょうか?」

みなさんは、どう思われますか?
OKでしょうか、NGでしょうか。

一般の方の判断が知りたかったので、200名ほどの受講者の方に手を上げてもらいました。

そうすると、「ダメでしょ」というのが大半、「OK」という方はぱらぱらでした。

多くの方の感じ方とは違って、実はこれはOKなんです。

有給休暇というのは、その使い途は自由です。
寝ていようが用事をしようが、遊んでいようが自由。
そして、働くのも自由なのです。

また、無給で知り合いのところでお手伝いしようと、アルバイトとしてお金をもらって1日だけ働こうと、どちらも問題ありません。

ちょっと待って。うちの会社では就業規則に「兼業禁止」の規定があって、ほかの会社でアルバイトすることは禁じられています。
有給休暇とは関係なく、「兼業禁止」だからだめなんじゃないの?

という鋭いご意見もありますね。

確かに、多くの会社の就業規則には、「別の会社に勤めてはいけない」
という規定があります。

そして、そのような就業規則のある会社で、よそでアルバイトしたことがバレると、懲戒される可能性があります。

でも、今度こそちょっと待ってください。

基本的に就業時間以外のプライベートな時間は、会社といえども、社員に「ああしろこうしろ」と指図することはできません。

逆に、会社はお給料を払って、就業時間内に社員に指図する権利、つまり指揮命令権を得ているのですから、就業時間外、つまり給料を払われない時間は、社員が自由にできるのは当然のことです。

プライベートな時間にどこでどうしようとわたしの勝手。
会社が就業規則に「兼業禁止」という規定を勝手に置いて、それをたてに懲戒してくるのは、懲戒権の濫用だ、という理屈もあります。

会社に「兼業禁止」というきまりがあるのだから、それに従うべきなのか、それとも「兼業禁止」というきまり自体が不当なものなのか。

この答は、「兼業禁止」という規定が、どういう目的で置かれているのか考えればわかります。

会社への忠誠心を保つため?

お給料以外に余分なお金を持つと、ろくなことをしないから?
(高校生のアルバイト禁止はこういう理由もあるみたいですね)

答は、「他社の仕事で疲労して、本来の業務に差支えがあってはいけないから」という理由です。

ダブルワークで睡眠時間が十分にとれず、仕事中に居眠りしたり、ミスが増える。

このような場合は、就業規則の「兼業禁止」規定を根拠に、会社はよそでのアルバイトを辞めるよう命令することができますし、それに従わない場合は懲戒される可能性もあるでしょう。

しかし、有給休暇をとってアルバイトしたということは、本人の働く時間は変わらないわけですから、疲労がひどくて本来の業務に支障があるということがなければ、会社が懲戒までするというのは、いきすぎだと言えます。

また、退職直前に、たまった有給をとっている最中に、次に働く会社でアルバイトする、ということもありますね。

会社としては、こちらからお給料を払い、社会保険にもまだ入っている状態で、よその会社でまた給料をもらっているというのは、感情的にはおもしろくないでしょう。

とは言っても、「兼業禁止」規定の意味を考えれば、もう
「本来の業務」はしていないわけですから、これをとがめだてすることは無理があります。

というわけで、法律的には、「有給休暇をとって、よそでアルバイトする」ことはOKです。

ただ、「兼業禁止」規定の是非をめぐって会社と争う考えがなければ、現実的には、アルバイトするときは会社の許可をとったほうがよいでしょう。