ニュースを見ると、飲酒運転での懲戒解雇や懲戒免職がたびたび報じられています。
とくに公務員や教員については、「飲酒運転=懲戒免職・退職金なし」という見出しも珍しくありません。

多くの人はここから「飲酒運転したら、即クビ」とイメージしますが、このイメージはかなり誇張されています。民間企業では、同じ飲酒運転でも処分の重さにかなり幅があり、懲戒解雇が無効になる裁判例も少なくありません(郵便事業会社事件 東京地方裁判所判決 2013年3月26日)。

世間のイメージは「飲酒運転=人生終了」に近いものですが、労働法の世界での評価はそこまで単純ではありません。

この記事では、労働法にくわしい社労士として、どんな場合なら懲戒解雇が認められ、どんな場合は争えるのかを整理し、実務と判例の双方の視点から解説します。

仕事中とプライベートで何が違うか

まず、「仕事中の飲酒運転」と「私生活での飲酒運転」は、扱いがまったく違います。
会社の業務として運転し、その途中で飲酒運転をした場合は、業務命令違反・安全配慮義務違反・使用者の信用失墜などがダイレクトに問題になります。そのため、重い懲戒処分が認められやすく、懲戒解雇も当然ありえます。

一方、勤務時間外・私有車での飲酒運転など、いわゆる「私生活上の非行」は、そもそも会社がどこまで口を出せるのかが問題になります。
裁判所は、私生活上の行為でも「会社の社会的評価に重大な悪影響を与える」「企業秩序を大きく乱す」なら懲戒処分はありうるが、そこまでの影響がないのに重い懲戒解雇まで行うと無効になる、という線引きをしています。

ポイントになるのは、労働契約法16条に明文化された「解雇権濫用の法理」です。
解雇が有効と認められるには、①客観的に合理的な理由があり、②社会通念上相当といえること、この二つを満たさないといけません。
飲酒運転だからといって、自動的にこの二つを満たすわけではない、というのが重要です。

プライベート飲酒運転で見られるポイント

では、プライベートでの飲酒運転が問題になったとき、裁判所はどのように判断しているのでしょうか。
裁判例を見ていくと、次のような事情が重視されています。

  • 業種・職種
    旅客運送業、物流、営業ドライバーなど、運転が業務の中心にあるか。
    運転を安全に行う信頼を基盤とする仕事ほど、飲酒運転は重い懲戒処分になります。
  • 業務で運転しているかどうか
    日常的に社用車で取引先を回る営業など、職務内容と密接に関連する場合は、私生活上の飲酒運転でも「職務適格性」に疑義が生じると見られやすくなります。
  • 社用車か私有車か
    社用車での飲酒運転は、会社の運行供用者としての責任が問われ、社会的信用に直結します。そのため、処分が重くなりがちです。
  • 事件の悪質性
    酒酔いか酒気帯びか、スピード違反や信号無視など他の違反を伴っているか、物損・人身事故があるか、ひき逃げ等の措置義務違反があるかなども判断要素です。刑事罰の内容(罰金額や前科の有無)もあわせて見られます。
  • 被害者の有無・被害の程度
    物損だけか、人身事故か、負傷の重さはどうか。人命にかかわる事故があれば、重い懲戒処分が選択されやすいのは当然です。
  • 過去の懲戒・指導歴
    過去にも飲酒や交通ルールで注意・懲戒を受けていたのか。再三の指導を無視しての行為なのか。これも判断を重くします。
  • 逮捕・拘束・報道されたか
    逮捕され勾留されると、そもそも出勤できず業務に支障が出ますし、新聞や地域ニュースで会社名とともに報じられれば、企業の社会的信用への打撃も大きくなります。

これらを総合して、懲戒解雇が有効かが判断されます。

懲戒解雇が難しい理由

会社側・管理職側の感覚からすると、「飲酒運転は犯罪なのだから、懲戒解雇は当然」という声が出がちです。

しかし、民間企業が労働者を懲戒解雇するには、就業規則に懲戒事由が明確に定められていることに加えて、先ほど触れた「解雇権濫用法理」のハードルを越えなければなりません。

私生活上の非行を理由に懲戒解雇する場合、裁判例はおおむね次のような視点で厳しくチェックしています。

  • 会社の社会的評価に重大な悪影響を与えたと言えるか
  • 企業秩序の維持や業務の円滑な運営に具体的な支障が出たと言えるか
  • ほかの懲戒(減給や出勤停止など)では足りないほどの重大事案か

過去の最高裁判決でも、「従業員の不名誉な行為が会社の対面を著しく汚したというためには、当該行為により会社の社会的評価に及ぼす影響が相当重大であると客観的に評価される必要がある」としています(横浜ゴム事件 最高裁1970年7月28日判決)。この考え方は、飲酒運転のみならず、私生活上のさまざまな不祥事に共通して使われています。

その結果として、

  • 業務時間外
  • 短時間の運転
  • 事故なし・報道なし
  • 職務内容との関連も弱い

    といったケースでは、「懲戒解雇までは行き過ぎ」とされ、解雇無効になっている事例もあります。

一方、旅客運送業の運転手が飲酒運転で物損事故を起こし、会社の信頼に直結する状況であったケースなどでは、懲戒解雇を有効と判断した裁判例もあります。

つまり、「飲酒運転で懲戒解雇は難しい」と言える一方で、「条件がそろうと有効になりうる」という両面があるのです。だからこそ、「飲酒運転をした=必ず懲戒解雇が有効」という単純な図式では語れません。

なお、公務員については、別枠で判断されます。多くの省庁や自治体が、飲酒運転に関して独自の詳細な処分基準を定めており、酒酔い運転は原則免職、酒気帯び運転でも免職・停職・減給などかなり厳しい処分が示されています。

解雇されても、すぐあきらめない

では、プライベートの飲酒運転が発覚して、実際に懲戒解雇を言い渡されたらどうしたらいいのでしょうか。
結論から言えば、「そこで終わりだ」とあきらめる必要はありません。

懲戒解雇の効力を争うには、おおむね次のような論点があります。

  • 就業規則に明確な懲戒事由が定められていない
  • 会社の懲戒権行使に相当性がない(重すぎる)
  • 事実認定に誤りがある(飲酒量・アルコール濃度・事故状況など)
  • 他の社員との処分のバランス(似たケースとの比較)が不合理

酒酔い運転など刑事処分を受けた後でも、懲戒解雇の有効性そのものは別問題として争うことができます。

もちろん、だからといって「飲酒運転しても後で争えばいい」と開き直ってよいわけではありません。
飲酒運転は、刑事責任だけでなく、被害者やその家族の人生を根底から壊しうる行為であり、クビになるかどうか以前に、絶対に避けるべきです。

それでも、飲酒運転とひとくくりにして「解雇はしかたない」とあきらめる必要はありません。個別の事案ごとに労働法のルールにそって、本当に懲戒解雇が相当なケースなのかどうかを検討する価値があります。

自分のケースが法律上どのように評価されうるのか、一度、労働問題にくわしい弁護士などの専門家に相談する必要があるのです。