10月、11月は、例年、年末調整の実務セミナーで、あちこちで登壇します。
このセミナー、年末調整が「手計算」できるようになるという内容です。
わたくしが社労士になった25年前は、まだ、小規模な会社では紙と電卓で計算しているところもたくさんありました。
たいていは、「源泉徴収簿」という国税庁で用意した様式を使って計算していました。
セミナー会場で「源泉徴収簿って見たことありますか?」とお聞きすると、「なにそれ? 食べられるの?」みたいな視線が返ってきますが、いまでも現役で、国税庁のサイトに行くと、入力機能がある pdf ファイルも提供されています。
様式はこちらからダウンロードできます。
令和5年分給与所得に対する源泉徴収簿(PDF/648KB) 入力用(PDF/864KB)
([手続名]給与所得・退職所得に対する源泉徴収簿の作成|国税庁)
わかりにくいものが多い役所の様式の中では、これはなかなかすぐれもので、番号順に計算していくと、年末調整ができあがるようになっています。
なぜ「手計算」なのか
源泉徴収簿は現在でも手に入りますが、年末調整の計算は、どこの事業所でも、会計事務所に依頼するか、給与計算ソフトを使うのがふつうです。
むかしのように、紙と電卓でやっているところは、ほとんどないでしょう。
それなのに、なぜ、「手計算」なのか。
まず、手計算できるようになると、ひとつひとつの作業の意味がわかるようになります。
給与計算ソフトでは、元になる数字を入力すると、結果が自動的に返ってきます。
とても便利ですが、入れたものと、出てくるものとに、どのような関連があるのか、自分でやっていてもわからない。
ブラックボックスですね。
どういう計算がされているか、だいたいでもわかっていないと、入力が間違っていて、とんでもない結果が出てしまっても、その間違いに気づくことができません。
手計算ですと、入力と出力の間の計算式を学ぶので、明らかに異常な数字が出てくれば、「なんだかおかしい」とすぐにわかります。
何年か年末調整の業務をやっていると、そのあたりの「だいたいこのくらいの数字になる」という、いわば「相場観」ができてくるものですが、最初のうちはそういうわけにいかないので、やはり計算式を知っているにこしたことはありません。
もちろん、覚える必要はなく、手元にすぐにわかる資料があればいいだけです。
仕事の全体の流れがわかるようになる
もうひとつ、もっとたいせつなこととして、年末調整という、自分がやっている仕事の意味と、仕事の全体の流れがわかるようになる、ということがあります。
実は、仕事の意味や全体像を知っていようがいまいが、作業の能率が変わるわけではありません。
ただ機械のように、言われたことを正確にこなしていれば、年末調整の作業自体はできてしまいます。
でも、人間は機械ではありません。
自分のやっていることに、「意味」を求めるのが人間です。
同じ作業をするのでも、まったく意味がわからない状態でやらされていると、すぐにあきてしまいますし、とても疲労感を感じます。
いっけん単純作業のようでも、意味がわかっていると、とりくむ気持ちが違ってきます。
現在地点はどのあたりか、わかるようになる
また、仕事の「意味」だけではなく、全体の流れ、この先どのように進んでいくかを知っている、つまり「見通し」がついているかどうかも、違いが出てくるところです。
全体の中のどのあたりをやっているのか、ここを正確にやるかどうかで、結果がどう変わっていくるのか、そのようなことを知っているか知らないかで、モチベーションに大きな影響が出てきます。
知らない場所を、地図もなく歩こうとすると、「こっちに向かって行けば着く」とわかっていても、ごく短い距離でも、とても長く感じます。
しかし、地図があって、先の見通しがつき、目的地までの距離もだいたいわかると、初めての道でも、不安なく歩くことができます。
とくに単調になりがちな仕事をまかせるときには、その仕事の「意味」と、全体の「見通し」を伝えることが、仕事自体のやりがいに直結するのです。
部下を指導するとき意識してみよう
もちろん、これは年末調整の実務だけではありません。
どのような仕事についても言えることです。
従業員が単純作業にあきてきているな、と感じたら、仕事自体の意味合い、全体の中でいまどのあたりをやっていて、このあとはどうなるのか、ということを、説明してみてはいかがでしょうか。
また、管理職の方は、「これ、やっといて」と、やり方の説明をするだけでなく、「意味」と「見通し」を常に意識して説明する習慣をつけることが、部下のモチベーションに作用することを知っておきましょう。